新春トレンドカレンダー:どうなる? 日本の未来 〜今年のトレンドはこう動く〜

今後期待の省燃費技術は?池田直渡「週刊モータージャーナル」 2016年新春特別編(4/5 ページ)

» 2016年01月04日 06時15分 公開
[池田直渡ITmedia]

まだまだ発展途上の小排気量ターボ

 3つ目は小排気量ターボだ。小排気量ターボはエンジンを小型化してシリンダー数を減らし、摩擦を低減することで低燃費化するという考え方だ。理想は理想として、小型エンジンの場合、現実的には排気量のみを減らし、シリンダーは減らさない場合も少なくない。排気量が減れば当然出力が落ちる。それをターボで補ってやれば、損失を減らした分、丸儲けという寸法だ。

アウディの直噴3気筒1リッター小排気量ターボユニット アウディの直噴3気筒1リッター小排気量ターボユニット

 小排気量ターボというシステムは、技術的に見れば、ターボを燃費改善に使うということであり、それはイコール低回転域のトルクアップを目的としたチューニングになる。低速トルクを太らせたエンジンとギア比がワイドな多段変速機を組み合わせて、どんな速度で走るときも極力低回転を保って使う運用になる。そうやって摩擦などの損失を減らすのだ。

 しかし低速でトルクアップを狙ったチューニングを行えば、トレードオフとして高回転域のトルクが落ち込み、高速側の性能が犠牲になる。これを解決しようとすれば、サイズの違うターボを2系統採用したり、低速側をスーパーチャージャー、高速側をターボチャージャーにするなど、システムが複雑になりコストが跳ね上がる。さらにいくつかあるメリットのうちの1つである、軽量化、摩擦損失低減で追加機器の分だけ不利になり、場合によっては何のために小排気量ターボにしようとしたのか分からなくなるのである。

 ターボエンジンという機械はその基本特性として、排気圧が足りない状態からの加速に弱い。排気圧が足りないとは低回転とほぼ同義だと考えてよい。そうした運転状態では極端にレスポンスが悪化し、排気圧が高まると二次曲線的に出力が上昇する。つまりアクセルに反応しないと思っていると、次の瞬間、一気に狙ったトルクをオーバーシュートするという特性になりがちで、乗用車エンジンとしてのエレガントさに欠けるのである。

 現在の小排気量ターボでは、小径のタービンを用いたり、電制スロットルを瞬間的にワイドオープンにしたりして、できる限りタイムラグを減らす努力をしており、以前に比べれば相当に改善されてはいる。それでも生まれ持った素養は完全には払拭できない。具体的な運転状態で言えば、低いギヤでオーバーシュートするとトルク変動が許容範囲を超えて大きくなり、普通のドライバーが乗るには危険な特性変化が起こりかねないため、一速ギヤでの加速のときは過給を行わないケースが多い。自動車メーカーは「タイムラグを徹底的に低減した」などと言うが、本当にタイムラグがなく、リニアなトルク特性を持っていればこんな制御をする必要はない。

 過給エンジンに過給しないなら馬車がかぼちゃに戻ったようなもので、発進はどうしてももっさりする。余談になるが、同じ低回転域でも速度変化を伴わない巡航の場合は、むしろ得意領域になったりもするので、その違いは区別しておかなくてはならない。

 つまり小排気量ターボは、一般的に言って発進加速が得意ではないのだ。最近のクルマのようにアイドリングストップが付いていれば、信号で停止するたびに、タービンが完全停止状態から加速しなくてはならないのでなおさらだ。だから走ったり止まったりを繰り返す運転にはあまり向かない。ではどんな場面で強みを発揮するのかと言えば、ディーゼルエンジンと同様、高速道路でエンジン回転を低く抑えて定速巡航する場合なのだ。

 小排気量ターボは3つのシステムの中で、最も欠点が隠しにくい一方で、コストと複雑なシステムを許容すればチューニングの余地が大きい。だから低速トルクを充実させつつ、高速域でのパワーを諦められない場合、使いたくなるシステムなのだ。

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