新型プリウス 名家の長男の成長池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2016年01月18日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

リッター40キロの秘密と回生ブレーキ

 燃費を諦めて改善が行われたのなら首をかしげるところだが、特筆すべきなのは、ただでさえ世界チャンピオンであった燃費の自己記録を大きく更新させつつ達成した点だ。エンジニアは相当に頑張ったはずだ。新型プリウスで最も大きな進歩を遂げたのはこのパワートレインの制御だと思う。

 ちなみにどうやって燃費を上げたのかをエンジニアに尋ねてみたところ、基本的にはエンジンの効率アップだという。EGR(排気ガス再循環)量を増やし、それでも安定して燃焼するように燃焼室内の渦を強く起こすようにした。どういうことかと言えば、少ないガソリンでも上手く燃えるようにしたと思えばいい。さらに排気ガスの熱の再利用や冷却風の取り入れ口に電動シャッターをつけるなどの改善によってエンジンの熱効率を上げた。こうして燃料から力を効率良く取り出せるようにした。

 その上でハイブリッドシステムの改良も行った。最も大きいのは、走行用バッテリーのセルごとの最適制御だ。新型プリウスのニッケル水素電池モデルの場合、168個のセルがあるが、このセルは個別に充電状態が異なる。バッテリーをロングライフ化しようと思えば、電気を空にしたり満充電にしたりせず真ん中あたりだけを使う方が良い。ところが、セルには個体差があるので、全部をいっぺんにコントロールしようとすると、個体差分のマージンを取らなくてはならない。そこで新たに個別のセルごとに充電管理を行う制御を組み入れた。これによってバッテリーの本来のポテンシャルを十分に引き出せるようになったのである。

 次がブレーキだ。プリウスは初代以来、代を重ねるごとに少しずつブレーキがまともになってきている。ブレーキフィールが不自然になるのは、ハイブリッドの場合、構造的には仕方のないところもある。ブレーキを踏んだとき、プリウスはすぐにブレーキパッドで減速しない。実は最初の減速はモーター(ジェネレーター)によるエンジンブレーキで発電を行ってエネルギー回生をしているのだ。ハイブリッドのキモはこのエネルギー回生にあるので、できる限りパッドには仕事をさせたくない。何故ならそれは回生を諦めてエネルギーを捨てる行為だからである。

 理想的には全部モーターに頑張らせてエネルギー効率を上げたいのだが、ドライバーの方は普通のブレーキのつもりで踏力によって減速具合を調整しようとする。それに見合う減速力を回生でリニアに調整するのは至難の業だ。ましてや速度や状況に応じてパッドも併用したりするのだ。そんなわけで、仕組み上ブレーキの効き具合がパッドのみで減速する時ほどリニアにならない。

 今回試乗の途中で、新旧プリウスを担当編集に試してもらった。と言っても40キロかそこいらから普通に信号で止まるだけ。ただし彼は2年ぶりにクルマを運転するペーパードライバーである。言うまでもないが下手だ。結果、旧型では結構強い減速Gピークを3回出してようやく止まった。対して新型ではそのピーク値がずっと下がり、その山も2回で済んだ。それだけ適正な効きが探り易くなったと言えるだろう。

モデルチェンジのたびにブレーキ性能が改善されている(写真は先代プリウス) モデルチェンジのたびにブレーキ性能が改善されている(写真は先代プリウス)

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