小向氏はこの1on1の実践がメンタル疾患の抑制や離職率の低下へ間接的につながっていると説明する。
「1on1を通じて部下は、『なぜいま自分がこの仕事を与えられているのか』といった自分の役割を明確にできます。面談の中で、仕事の意味や意義について確認し、納得した上で取り組んでもらうので、ストレスや不満を感じながら仕事に向かうことが減ります。その点は、メンタル疾患の抑制や離職率の低下にもつながっているでしょう」(小向氏)
「なんで自分がこんなことをしなければいけないのだ」という不満はストレスになるだけでなく、人間関係を悪化させるきっかけにもなってしまう。また、仕事への意味づけを行うことはモチベーションにもつながり、部下が良いパフォーマンスを発揮する上でとても重要になるという。
さらに、1on1を通じて上司と部下のコミュ二ーションが増えたことによって、両者の価値観(期待値の)のズレがなくなり、信頼関係を築くことにもつながっている。週に一度の定期的な面談によって、上司が期待している方向から少しズレが生じた段階で、すぐに補正ができるからだ。
「例えば、上半期と下半期の6カ月ごとに目標を設定します。目標を立てた当初と最後で期待値に大きなズレが生じるのはよくある話ですが、定期的に部下と1on1、コーチングを行うことで、ズレを補正できるのです。結果として、最終的な期待値との大きなズレをなくすことができます」(小向氏)
この期待値のズレを小さくすることで、「頑張っているのに評価されない」といったすれ違いをなくすことができるのだ。
また、1on1では本人の今後やりたい仕事や、家庭の事情などによる働き方の要望なども共有する。小向氏は「なかなか気軽に話づらい話題でも、話す場(聞く場)を作ることで、部下の考えや状況を理解することができ、それが信頼関係を深めることにつながる」と説明する。
「このように十分な時間をとって1対1のコミュニケーションをとることは自然にはなかなかできないものです。だからこそ、会社でその場をきちんと用意することが大切なのです。自分から積極的に相談したり、あるいは、相談を聞いてあげることが苦手な人もいるわけですから」(小向氏)
小向氏は、今後も1on1の質を上げるための新しい研修を継続的に取り入れていくという。「うちの会社はコミュニケーションを大切にしている」といった話は良く聞くが、ここまで徹底して1対1のコミュニケーションの「技術」や「質」を高めようという取り組みは新しい。
1on1の取り組みの結果、従業員から「健康推進センター」に寄せられる相談内容が変わったそうだ。以前は、仕事によるストレスや、働き方などの悩み相談も多かったが、それがなくなったという。
「少なくとも仕事に関して、誰にも言えず苦しんでいるという状態はなくなりましたね」(小向氏)
企業にとって大きな課題である従業員の生産性向上、離職率の低下、心の健康の問題。その解決の糸口はこの「コミュニケーションの質の向上」にあるのかもしれない。あなたの会社のコミュニケーションの質はどうだろうか。いま一度、振り返って見てほしい。
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