家電メーカー「アクア」の伊藤社長が業界の常識を破り続けてきたわけ「全力疾走」という病(3/4 ページ)

» 2016年02月02日 07時30分 公開
[香川誠ITmedia]

販路開拓で230万枚の大ヒット

 2009年に世界のスーパースター、マイケル・ジャクソンが他界した。マイケルの急逝により、予定されていたロンドン公演は幻となったが、そのリハーサル映像がドキュメンタリー映画『THIS IS IT』として制作された。その翌年、『THIS IS IT』のDVDがソニー・ピクチャーズ エンタテインメントから発売されることになったが、想定の売上枚数を巡って、伊藤とベテラン幹部との間で意見の対立があった。

 どう頑張っても35万枚がいいところだというベテラン幹部に対し、伊藤は「100万枚は売れる」と豪語した。「業界の素人」である伊藤は、プロ中のプロがはじき出した3倍もの数字を掲げたのだ。伊藤の話に耳を貸す者はいなかった。

 ところが、『THIS IS IT』は大方の予想を超える230万枚の大ヒット。これは伊藤が新しい販売経路を開拓したからだった。これまでの常識なら、DVDは販売店やレンタルショップに置いてあるのが当たり前。だが伊藤はこれまでDVDを販売していなかった場所に商品を並べた。例えば、スポーツ用品店。映像に映るダンサーたちが着ているウェアをスポーツ用品店が取り扱っていることに着目し、DVD販売店には来ない人たちの目にも触れるようにしたのだ。

 「僕はいつも5回の『なぜ?』を繰り返します。例えば、DVDが売れないのは女性やシニア層を相手にしていないからだと僕が言うと、『そういう人は店に行かない』と返される。『では、どこに行くのか?』、『そういう人にアプローチしていますか?』と質問していくと、途中で言葉に詰まってしまうんです。だいたい2回で回答が怪しくなります。僕を5回論破すれば大したもので、そのような案は通しています」

 アクアでも同じだ。なぜから新しい商品が生まれている。

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