観光列車の増殖と衰退――鉄道業界に何が起きているか?杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)

» 2016年02月05日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

新たな動きもある

 一方で、新たな観光列車の誕生も多い。前述した記事にある一覧表以降に登場した主な列車を挙げると、JR西日本は2016年春に宇野線で「ラ・マル・ド・ボァ」、津山線に「ノスタルジー」を運行する。西武鉄道は4月17日から「西武 旅するレストラン 52席の至福」を運行開始。えちごトキめき鉄道も4月23日から「えちごトキめきリゾート雪月花(せつげっか)」を走らせる。

西武鉄道が運行予定のレストラン列車(出典:西武鉄道Webサイト) 西武鉄道が運行予定のレストラン列車(出典:西武鉄道Webサイト

 岐阜県の長良川鉄道も観光列車「ながら」を導入。千葉県の小湊鐵道は昨年11月に投入したものの故障で休止している「里山トロッコ」を今春には再開させたい考えだ。JR東日本は上越新幹線で「GENBI SHINKANSEN / 現美新幹線」をお披露目、そして最近、小田原〜伊豆急下田間の「伊豆クレイル」を発表したばかり。

 間もなく道南いさりび鉄道の観光列車の内容も明らかになるだろう。並行在来線第3セクターとしての開業が3月26日。4月から走らせるつもりなら、そろそろ情報を公開する時期だ。旅行会社への団体営業を始めて、個人客からの予約も受け付ける必要がある。

 えちごトキめきリゾート雪月花と里山トロッコ以外は改造車両で、近年の観光列車ブームの定石に沿っている。2017年には新製車両のJR東日本「トランスイート四季島」、JR西日本「トワイライトエクスプレス瑞風」が控えている。

観光列車に重要な“非鉄吸引力”

 近年の観光列車の増殖は、鉄道以外の業界からは奇異に見えるだろう。楽しい列車が急に増え出した。いったい鉄道業界に何が起こったか。昨年9月の記事では「余剰車両の再活用」というキーワードで読み解いた。しかし、それだけで観光列車は成立しない。お客さまあっての観光列車である。観光市場としてもとらえる必要がある。

 その手掛かりを得るために、まず今回、観光列車の定義付けを試みる。観光列車とは何か。豪華列車「ななつ星 in 九州」が登場したとき、私も含めて、メディアでは「単なる移動手段としての列車ではなく、乗車そのものが目的となる列車」と解説した。しかし、それまでも「乗車そのものが目的となり得る列車」はあった。小田急や名鉄などの展望電車がそうだし、SL列車もそうだ。SL列車は観光列車に取り込まれていると思うけれど、私鉄特急のように、展望の良い、室内の造作が洗練された列車を観光列車と呼べるだろうか。観光列車とは、もう少し特別な存在ではないか。

「ななつ星in九州」はJR九州の観光列車の集大成(動画撮影:ayokoi氏)

 ななつ星 in 九州以前にも、乗って楽しい車両はたくさんあった。そもそも私のような鉄道ファンは、どんな列車でも、極端に言うと、通勤電車や地下鉄でも乗って楽しく、新しい路線ができたり、廃止が告知されたり、新車が出たり、旧車が引退すると、「わざわざ乗りに行く」わけだ。しかしこれはどう考えても観光列車とは言えない。鉄道趣味人という限られた嗜好の観光の1つではあるけれども。

 それを踏まえて、近年の観光列車需要は鉄道ファン向けだけではない。前回記事の「鉄旅オブザイヤー」の選考ポイントでいうところの「非鉄吸引力」が重要だ。つまり、「鉄道ファンではなくても、風景や食事、ショッピングなど、一般的な観光需要を満たす列車」がキーワードになるだろう。このうち、風景は一般車両でも観光列車でも同じだ。そうなると、重要なのは食事とショッピングになる。食事はコースでも良いし、車内の弁当販売も含めて良いだろう。ショッピングは車内販売と停車駅の販売を含む。ただし「その列車限定」という特別感は必要だ。

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