では、どうして成城石井は、こうしたユニークな品ぞろえをすることができたのか。これこそが、成城石井のルーツに関わってくる。成城石井が1927年に誕生したのは、都内屈指の高級住宅街・世田谷区成城。食に対する興味や関心が高く、本物志向で目の肥えた成城の顧客に、成城石井は徹底的に育てられてきた、というのである。
成城石井が成城の顧客に育てられた、という象徴的な商品がある。ワインだ。圧倒的な品ぞろえと高い品質で、ワインは成城石井の人気商品のひとつになっているが、きっかけは顧客の声だった。
ワインを扱い始めたころ、「欧州のワインはもっとおいしいよ」と顧客に言われたのだという。同じラベルとワインが、日本と欧州では違うという。そんなはずはない、と欧州に飛んで愕然(がくぜん)とした。本当に味が違っていたからだ。
当時はワインの輸入を商社に委ねていた。調べてみて、味の違う理由が分かった。欧州から船便で2カ月もかかるのに、常温による普通のコンテナで運ばれていたのだ。長期間にわたって、冬でも30度近い気温になる赤道直下のエリアを移動していた。コンテナ内部はとんでもない熱さになった。
これが、デリケートなワインに影響を与えないはずがない。実際、高温にさらされ、日本に着いたときには量が減っているものもあったという。
そこで成城石井は「Reefer(リーファー)」コンテナと呼ばれる定温輸送で直輸入することにした。しかし、30年近く前には、これはかなり珍しい取り組みだったらしい。よほどの高級品でなければ行われておらず、商社の取扱金額も高かった。そこで自社で貿易会社を作り、直輸入を始めた。
しかも、日本に入ってきてから外気にさらされたのでは意味がない、と倉庫にもこだわった。定温輸送、定温定湿管理の倉庫を建造し、そこにワインを保管しているのだ。24時間、温度や湿度を管理し、記録するだけでなく、冷気が全体にまんべんなく自然滞留される仕組みも取り入れている。
醸造知識を持った専門家のスタッフが欧州で直接仕入れ、定温輸送にこだわり、現地と同じ状況で保管し、店舗にも定温輸送しているのだ。
さらに保管されているワインは多いときで150万本にのぼるが、輸入されたものから順に店舗に並ぶわけではない。飲み頃状態のものがチョイスされ、店頭に送られている。
顧客にいいものを出したい、常に最高の状態で提供したい、と考えたら、ここまでやるのが成城石井なのだ。だから、わざわざ成城石井にワインを買いに来る、というワイン通も多い。かつては3時間、4時間とかけて、わざわざ地方から成城石井までワインを買いに来ていた人もいたそうだ。
ちなみに定温輸送「Reefer」は、どこでも行われているわけではない。ワインの裏面のラベルに、その文字が書かれていなければ、常温で赤道を通ってきた可能性は高い。また、国内での物流や保管状態でも品質は変わる。本当においしいワインを求める人は、こういうことも、実は要チェックなのである。
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