リゾートビジネスとしての観光列車はどうあるべき?杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)

» 2016年02月12日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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富裕層を醸成する経験値をためよ

 それでは、ななつ星in九州はどうか。来年に登場する「トワイライトエクスプレス瑞風」「トランスイート四季島」もそうだけど、これらは上記の属性には当てはまらない。「可処分所得が高く、可処分時間が長い」人向けの観光列車だ。いわゆる富裕層の属性である。三越伊勢丹ホールディングスがななつ星in九州を貸し切ったブライダルプランを販売する。これもななつ星in九州が富裕層向けと認知された証拠であろう。

 可処分所得が高く、可処分時間が長い人は、今までも日本に存在した。しかし鉄道業界には、彼らが満足すべきサービスメニューがなかった。そこで従来の富裕層は海外に向かった。「オリエントエクスプレス」をはじめ、オーストラリアやカナダの大陸横断列車などだ。

 つまり、ななつ星in九州は、可処分所得が高く、可処分時間が長いという新しい属性に、鉄道業界として本格的に取り組んだ。日本のレジャー産業全体にとっても注目すべき列車だ。

日本のレジャー産業が不得手だった「富裕層市場」属性 日本のレジャー産業が不得手だった「富裕層市場」属性

 だから日本の富裕層に向けた観光列車の誕生は喜ばしい。ただし、ライバルは海外の豪華列車になる。日本で考える「既存の豪華さ」では心許ない。より良いサービスを開発すべく、富裕層をつかむための経験値をためていく必要がある。

 「お茶漬け海苔」の永谷園は、商品開発担当社員に破格の予算を与えた「ぶらぶら社員」に、「ひたすらおいしいものを食べ続けよ」と命じているという(関連リンク)。日本の鉄道会社にもこの仕組みがほしい。好きなだけ予算を与えて、世界各地の観光列車に乗りまくり、そこで知り合った世界の富裕層と対等に付き合えるだけの給料を与える。

 「研修として海外の豪華列車に一度だけ乗ってきました」では経験値として足りない。いつも豪華列車に乗れるような生活をさせる。このくらいの決断をしないと富裕層向けのサービスを極められない。なにしろ相手は、常に可処分所得が高く、可処分時間が長い人だ。失礼ながら、JRグループで最も高給取りであろう取締役の人々も、富裕層の行動感覚を理解できない。

 観光列車に乗り、世界の富豪と交流する「ぜいたく担当社員」。そこから報告されるあらゆる事象が、今後、世界と対等に競争できる観光列車の誕生に生かされるはずだ。

 私がもっと若く、語学に長けていれば立候補するんだけどなあ(笑)。

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