「着物業界」が衰退したのはなぜか? 「伝統と書いてボッタクリと読む」世界スピン経済の歩き方(3/4 ページ)

» 2016年02月23日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

着物業界は「海外への丸投げ」を行っていた

 ただ、この「高付加価値」が曲者だ。「東京都中小企業種別経営動向調査報告書」によると、呉服業界の売上原価率は、昭和56年(1981年)度の64.2%から、平成25年(2013年)度には49.5%と大きく改善している。同時期の小売業の平均が68〜63%ということを考えると、尋常ではないほどのコストカットがなされているのだ。

 もうお分かりだろう。「海外への丸投げ」だ。日本人の着物需要が減っていくなかで、売り上げを維持するため、着物業界は「価格を上げ、原価を下げる」というともすれば「ボッタクリ」とも言えなくはない戦略をとったのだ。アトキンソン氏は、これが着物業界の衰退を招いたとみている。

 海外産で中身がともなわない「日本の伝統技術」をこうして売れば、原価率が低く利益率が高いので、当初はたしかに儲かるかもしれません。しかし、中身がともなわないので当然、目の肥えた、これまでの顧客からはそっぽを向かれていきます。しかも、値段が高いので新規顧客も入って来ません。じわじわと需要がおちこみますので、最終的に利益を減少していきます。(P320)

 産業として衰退していけば当然、「文化」も滅びの一途をたどっていく。着物を日常的に愛好するのはピースの又吉さんなど自分のスタイルを貫く少数派に過ぎず、テレビCMなど以外は、成人式や結婚式以外、街で和装の人を見かける機会は30年ほど前からぐんと減っている。ならば、外国人観光客の「着物ブーム」でも同じことが起きないとは断言できないのではないか。今は素直に「伝統文化」という金看板に飛びついてくれているが、やがて訪日観光客が3000万人、4000万人と増えていく中で、この「ボッタクリ構造」に気づく者も現われてくる。

 「KIMONO? あれは中国やベトナムの職人がつくっていて日本ではもう絶滅した文化だよ。東京を歩いてごらん、誰もそんなもん着て歩いてないだろ」。なんて会話が外国人観光客の間で交わされる日々もそう遠くないかもしれない。

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