「着物業界」が衰退したのはなぜか? 「伝統と書いてボッタクリと読む」世界スピン経済の歩き方(4/4 ページ)

» 2016年02月23日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]
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見て見ぬふりをしている「偽善」にも目を向けるべき

 最近やたらと「日本の文化はスゴい」「日本の技術が世界から大絶賛」という自画自賛の報道が目立つ。日本人としてなんとも気持ちの良いムードではあるが、「誇り」がやがて「おごり」となって、産業とそこに根付いていた文化を蝕んでいくというのは、日本の白物家電メーカーをみても明らかだ。

 そんなことを言うと、「こいつは反日だ」「日本の職人をバカにするのか」と怒りに震える方たちも多いかもしれないが、実は衰退している当事者たちがそれを一番よく分かっている。

 目玉が飛び出るほど高い高級な着物を仕立てる職人も、実はそれほど高い収入を得ていない。これは需要が少ないところに加えて、販売、流通などさまざまな人々が「中抜き」をしていることも大きいからだ。

 そのため、アトキンソン氏は、日本の職人文化を蘇らせるため、「品質の高いものを今よりも安く、正当な価格で提供をすることで、回転率を上げる」ことを目指していくべきだといっている。つまり、いままでのような「ボッタクリ」を止めて、市場価値に見合う適正な価格にすることで需要を増やし、職人たちの仕事そのものを増やしていくべきだと主張している。

 それが正論だということは当事者たちもよく分かっている。分かっているが、直視をしたくない。だから、文化財の世界の人たちの間では、こんな自虐的なジョークがあるという。

 「伝統と書いてボッタクリと読む」

 日本の技術はスゴい。世界に誇る歴史も文化もある。ただ、その一方でそろそろ誰もが薄々勘付いていながら、見て見ぬふりをしている「偽善」にも目を向けるべきではないのか。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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