フェイスブックがVRに約2000億円を投資する本当の理由新連載・西田宗千佳のニュース深堀り(2/3 ページ)

» 2016年02月26日 08時00分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

「そこにいる」感覚を生かしたコミュニケーションの価値

 だが一方で、ゲームだけでここまでの市場の盛り上がりをカバーできるかというと、かなり難しい。コストが高くハードルが高いと、ゲームを趣味としていない「普通の人」が入って来にくくなるからだ。

 VRが過熱しはじめた1つのきっかけは、2014年3月、FacebookがOculusを20億ドルで買収したことだ。Facebookはなにも、ゲームデバイスとしての未来だけに20億ドルもの費用を投じたわけではない。「ゲームを超える価値」を考えての先行投資、という意味合いが強い。

 それがなにかを知るには、Oculusが公開している「Toybox」というデモの映像を見るのが一番だ。本当は体験してみるのがベストだが、映像を見るだけでも、VRの持つビジネスとしての可能性を理解できると思う。

 Toyboxは、ごくシンプルなデモだ。3Dの空間が用意され、そこに積み木やおもちゃが置かれている。映像も、リアルというほどではない。だが、置かれている物体は全て現実に似た物理法則が適用されており、手を離せば下に落ちていくし、ぶつければ崩れたり割れたりする。

 音声も、きちんと立体音響で、「起きた場所」でそれらしい音がする。Toyboxの世界にいるのは自分だけではない。自分以外の人物も、HMDとコントローラーを持てば、同じ世界に入ってこれる。周囲の物体と同じく、CGは簡素だ。だが、VRの中にいるキャラクターは、まるでそこに人がいるかのような感情を筆者の中に生み出した。映像の質でなく、その空間に「自分も相手もいる」ことを信じ込ませるに足る何かが、今のVRにはある。

Toyboxデモ

 この「そこにいるような感情」こそが、多くの企業をVRに駆り立てているものの正体だ。

 ビデオ会議やテレビ電話が不自然だと感じたことはないだろうか。顔が見えているのだから、声だけの対話よりずっと親近感を持っても良さそうなもので、もっと普及する可能性があるのに、いまいち市場ができ上がらない。理由は「そこにいる」感覚が希薄で、音声や文字ベースのコミュニケーションの気楽さを超える価値を生み出せていないからだ。

 だが、VR世界だったらどうだろう? 会議は実際に会う以上の価値を生み出す。例えば、試作品を見ながら会議をしたいという場合には、試作品を実際に作る必要もなくなる。CGで描いたものを目の前に置いて議論できるからだ。

 直接その場で編集することだって可能になる。Oculusの「Medium」やMedia Molecule(メディアモレキュール)の「DREAMS」では、何もない空間で「彫刻」のように3Dの物体を作れる。製品開発や医療などにもすぐに応用できる。家族や知人と過ごす時間はより密接なものになる。行った場所の写真や映像を一緒に「VR空間の中で見る」経験が可能になるからだ。

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