そしてもうひとつが1960年、当時の豊田英二副社長が提唱したフレーズだ。
「検査の理念は、検査しないことにあり」
佐々木氏は書く。
要するに、品質保証には大きく2つがあるということです。品質を検査に頼るやり方と、品質を工程で造りこむやり方です。前社は、第三者が善し悪しを判断し、悪ければやり直しを命じる。それに対して後者は、一つひとつの工程で善し悪しを判断しながら、最終的な品質を高めていく。この後者こそが、文字どおり「自工程完結」の考え方なのです。
トヨタが目指してきたのは、最終的なアウトプットの品質が高ければいい、という状態ではなかったのだ。アウトプットに至るまでのプロセスも、高い品質でなければならない。そしてこれは、現場もスタッフ部門も同じなのである。
当初、「自工程完結」導入には、スタッフ部門から反発の声もあったという。「自分たちの仕事はクリエイティブである」「そのような現場の考え方は関係ない」……。自分たちも一生懸命にやってきたのだ、ということである。佐々木氏は書いている。
ところが、「自工程完結」を取り入れてみて、わかったのです。自分たちがやっていたのが、単なる「心がけ」だったのだということに。科学的なものではなかったということに。そして、スタッフ部門の仕事も、「自工程完結」で大きく変えられるということに。
生産性は上がり、部下のモチベーションも上がる。「自工程完結」を強く意識する上長は急拡大したという。今では、新たに役員になる管理職も含め、役員レベルで「自工程完結」の考えかが分からない人は一人もいない。トヨタ生産方式を知らずに、生産系の役員になる人がいないのと同じ状況が起きている。
仕事をスピードアップさせ、生産性を向上させ、正しい結果をもたらす。「現場」を極めてきたトヨタは、ホワイトカラーの仕事革命という、次のステージにすでに歩みを進めているのだ。
1966年兵庫県生まれ。1989年早稲田大学商学部卒業後、リクルート・グループなどを経てフリーランスのライターとして独立。最前線のビジネス現場から、トップランナーたちの仕事論を分かりやすく伝えるインタビューを得意とする。雑誌や書籍などで執筆するほか、取材で書き上げるブックライター作品も70冊以上に。取材相手は3000人を超える。
著書に『なぜ今ローソンが「とにかく面白い」のか?』『「胸キュン」で100億円〜恋愛ゲームで世界一。上場企業ボルテージのヒットのマニュアルとは?』『なぜ気づいたらドトールを選んでしまうのか?』『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか?』『成功者3000人の言葉 人生をひらく99の基本』『職業、ブックライター。』『明日からやる気がでる 星空名言集』など。
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