迷走する長崎新幹線「リレー方式」に利用者のメリットなし杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)

» 2016年03月04日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

「ミニ新幹線方式」なら2020年度に開業できる

 JR九州がリレー方式の提案に至った理由は以上の経緯である。ただし、これを理解できたとしても、利用者としては納得しがたい。時間短縮効果は少ない上に、乗り換えを強いられ、料金は上がる。よほど所要時間にこだわる人でなければ、高速バスで十分だ。博多〜長崎間の高速バスは約2時間半もかかる。しかし乗り換えはないし、運賃はたったの2570円。鉄道の乗車券より安い。

 JR九州の最大のライバルは高速バスである。博多〜長崎間で運賃の安いバスに勝つためには、圧倒的なスピードが必要だ。それも在来線時代よりも明らかに短縮する必要がある。長崎〜博多間は約150キロメートル。フル規格新幹線で整備したとすれば、九州新幹線鹿児島ルートの博多〜新八代とほぼ同じ距離。所要時間は約50分で、1時間を切る。ここまで早くなければ意味がない。

 長崎県の県議会と県内6市議会の議員で作る連絡協議会は、いったんリレー方式を受け入れた後、フル規格新幹線実現を目標とすると決議した。最終目標がフル規格というのはもっともだ。しかしリレー方式で本当にいいか。ここでもやはり利用者の視点が足りない。リレー方式を取引材料にしてはいけない。

ミニ新幹線説明資料(出典:新潟県Webサイト) ミニ新幹線説明資料(出典:新潟県Webサイト

 私はリレー方式の代案として「ミニ新幹線(新在直通)方式」を提案する。山形新幹線「つばさ」、秋田新幹線「こまち」方式だ。つまり、在来線規格として残す新鳥栖〜武雄温泉間はレールの間隔を広げて新幹線車両を直通させる。既存の在来線車両や貨物列車を通すために、青函トンネルと同様にレールを3本使って在来線規格も残す。複線化して線路を1本増やすなら、それを新幹線と在来線の両方に対応させたらいい。

 秋田新幹線の場合、盛岡〜秋田間の田沢湖線・奥羽本線を改軌した。田沢湖線は工事に伴って1年間だけ運休した。この間、普通列車はバス代行とし、特急列車はほかの路線を迂回させた。奥羽本線は複線だったため、単線運行として工事を実施した。山形新幹線の場合も、奥羽本線は区間ごとに単線運行や運休で対応した。普通列車の運休は約2カ月。在来線特急「つばさ」は約1年間運休した。

 九州新幹線西九州ルートの場合、新鳥栖〜肥前山口間は奥羽本線方式で、列車運行を続けながら改軌工事ができる。肥前山口〜武雄温泉間は田沢湖線方式で1年間で改軌工事ができる。いや、複線化するから奥羽本線方式に準じた工法が使える。いずれにしても、改軌工事は1年間でできるだろう。

 今すぐ着工できないとしても、測量や設計など準備に2年、工事に1年として、完成まで3年でできる。2017年度から始めたら、早ければ2020年度には開通できそうではないか。遅くともリレー方式の2022年開業と同じか、さらなる前倒しが可能と言えそうだ。

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