財政破たんから3年、デトロイト再生に取り組む起業家は何をしているのか事例に学ぶ、地方創生最前線(3/3 ページ)

» 2016年03月11日 08時00分 公開
[石川孔明ITmedia]
前のページへ 1|2|3       

起業家が手掛けるデトロイトの「再生」

 ポニーライドには独学でスピーカーを開発する大学生や、新たなデニムブランドを立ち上げた元営業マン、そしてホームレス向けの寝袋・コート・バッグになるアイテムを製造するNPOなど、さまざまな起業家が入居している。現場では元受刑者やホームレス、無業だった若者がトレーニングを受けて生産に携わり、地元の子どもたちが溶接やハンダ付けを学びにくるなど、ポニーライドは多様な住民が集まる拠点となっている。

デトロイトの資産を生かしたものづくりシェアオフィス、ポニーライドにはさまざまな起業家が集う

 活躍しているのは若者だけではない。デトロイト出身のダン・ギルバートは、住宅ローン会社を起業し大成功を収めた。ミシガン州のプロスポーツチームをいくつも保有する彼は、中心市街地の廃墟となった高層ビルを次々と買収し、エリアとしての都市再生を手がけている。

 彼は市街地の治安維持のため、新たにセキュリティ会社を設立した。頼りにならない警察の代わりにコールセンターを設置し、警備員を派遣する仕組みを構築。加えて市街地に多数の監視カメラを設置し犯罪の防止に努めている。警察の代替機能を民間が担うことについてはさまざまな議論があったようだが、最終的には「行政がやれないなら民間でやるべき」と実施に踏み切った。

歴史的な価値は高いものも、修繕費用が高すぎるため高層ビルの多くが廃墟となっていた。ダン・ギルバートは中心地のビルを片っ端から取得している

 また、人々の経済的自立が街の安定につながるという考えから、自ら経営する企業のコールセンターを中心市街地に移転。関連企業のオフィスも次々とデトロイト市街地に移し、現在では8000人以上に雇用を提供するに至っている。この流れを受けて、ゼネラル・モータースも数千人の雇用をともなうカスタマーセンターをデトロイトのダウンタウンに移転するそうだ。

 ダンが支援する起業支援ファンド、デトロイト・ベンチャーズ・パートナーズのゲイブ・カープはこう語った。「ダウンタウンの川辺でランニングする市民を見て僕は感動した。数年前だったら、彼らは間違いなく強盗にあっていただろう。ダン・ギルバートがダウンタウンの再開発に取り組み始めた当時は、誰もが彼のことをクレイジーだと言っていた。でも遠くない将来、それが正しい投資だったと気付くだろう」

 産業とともに都市機能が崩壊するという想像を絶する事態に陥ったデトロイトは、フロンティア精神に溢れた起業家によって劇的に再生しようとしている。彼らは「衰退した場所だからこそ、チャンスがある」と語り、事業を通して新たな街づくりを担っている。なお、起業家たちに行政についての期待を伺うと「特にないけど、ちゃんとゴミを改修してもらうことかな」とのこと。徹底的に行政に頼らない自助の精神は、日本でも見習うべきかもしれない。

プロフィール:

石川孔明

 1983年愛知県吉良町生まれ。地元愛知県にて漁網のリユースで起業後、外資系コンサルティングファームを経てNPO法人ETIC.へ。社会起業家や起業、行政を対象としたリサーチ&コンサルティングを担当。2011年に世界経済フォーラム・グローバルシェイパーズコミュニティに選出。リクルートワークス研究所客員研究員。

NPO法人ETIC.(エティック)

 1993年設立、2000年にNPO法人化。起業家型リーダーの育成を通した社会・地域づくりに取り組む。東日本大震災後、東北のリーダーを支えるための「右腕プログラム」を立ち上げ、これまでに127のプロジェクトに対して、228名の経営人材を派遣している。2013年度からはジャパン・ソサエティーの支援のもと日米交流プログラムや助成プログラムも実施。


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.