そんな同社がOTONA RANDSELの開発に着手したのは、今から約2年前。創業から50年という節目を迎え、「新しいことへの挑戦」をテーマに新商品を企画したそうだ。しかし、なぜそれが“大人向けのランドセル”だったのだろうか。実は、もともと「大人用のランドセルは受け入れられるはず」という考えはあったと語る。
「リュックのように背負い型の方が楽ですし、箱型の方が書類を収納しやすい。ランドセルが持つ機能はビジネスパーソンが使うカバンとして、もともと相性が良いと考えていました」(同)
また、前述したように、同社は品格を出す素材やデザインにもともとこだわってきた。つまり、大人向けのランドセルを作る“土台”は既にでき上がっていたのだ。創業以来ずっと続けてきたこだわりがOTONA RANDSELを生んだといえよう。
しかし、土台や環境が整っていても、その開発は一朝一夕にはいかない。開発を担当した同社のデザイナー、舟山真利子氏は「大人がランドセルを背負うことの違和感を消すこと」に注力したと話す。
「スーツ姿にも合うように、カジュアルすぎないよう“カッチリ感”を出す必要がありました。従来のランドセルにある丸みを極力なくし、より四角い形を実現するなど、さまざまな試行錯誤を繰り返しました」(舟山氏)
大人用仕立てにするため、見た目を改良しつつ、ランドセル本来の機能を保たせる。この課題をクリアしてOTONA RANDSELを作り上げるため、同社は「全勢力」を上げて取り組んだという。
ランドセル以外にもさまざまなカバン類を取り扱う同社には、ランドセル作りの職人だけではなく、ビジネスバック作りの職人や小物作りの職人など複数の専門家がいる。今回の大人向けランドセル作りでは、その全ての職人の知識を融合させたという。
「例えば、ビジネスバック作りの職人が取っ手の形を、小物作りの職人がポケットの形をアドバイスするなど、各職人の知恵を横断的に活用することで作れた商品です。ランドセル作りの職人だけでは絶対に作ることはできませんでした」(同)
このような部門の垣根を越えた全員協力体制は初めてのことだったと説明する。こうして改良に改良を重ねて大人向けのデザインを作り上げたOTONA RANDSELはビジネスパーソンからの支持を得て、10万円という高価格にも関わらず、1日で完売する結果となった。
今回の想定外の売れ行きに対して、同社は次のように分析している。
「もともと、リュックなどの背負い型のカバンの方がビジネスシーンで使いやすいというニーズはありました。また、海外で先行していたランドセルブームにより、『ランドセルは子どもが使うもの』という概念が変わりつつあったタイミングでもありました」(同)
背負い型カバンへのニーズの高まりと、海外でのランドセルブームが人気をけん引する形となったわけだが、いずれにせよ「大人向けのデザインに改良したランドセルはビジネスバックとして受け入れられるはず」というこの同社の狙いは見事に的中したのだ。
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