スポーツカーにウイングは必要か?池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2016年03月28日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

空気抵抗を増大させずに効果を引き出すには?

 ところが、ウイングはその成り立ち上、空気抵抗が増える宿命から逃げられない。そもそもウイングは、ボディの上面と下面を流れる空気を上面だけ抵抗をつけて阻害してやることで、上面の空気の流れを遅くする仕組みだからだ。結果、ボディは空気によって下側へ押しつけられる。

 この上面、下面の気流の速度差は相対的なものなので、上面に空気抵抗を付けて遅くしてやる代わりに、下面の流速を上げて速くしてやることでも同じ効果が得られる。

 燃費を良くしなくてはならない今、本当ならウイングで上面の抵抗を増やすことよりも、ボディ下面の抵抗を減らしてやった方が都合が良い。そこで自動車は徐々にボディ下面の気流のコントロールに留意する設計に進んでいるのだ。

プリウスは歴代モデルでボディ下面の整流に熱心だったが、新型でそのカバー範囲はさらに広がった。空気抵抗を減らせば燃費は上がる。さらにハンドリングにも貢献するという一石二鳥である プリウスは歴代モデルでボディ下面の整流に熱心だったが、新型でそのカバー範囲はさらに広がった。空気抵抗を減らせば燃費は上がる。さらにハンドリングにも貢献するという一石二鳥である
プリウスを真横から見ると、リヤウインドー下端を高い位置に維持するためにボディデザインで苦労していることがよく分かる。サイドウインドー下端のラインが極端に後ろ上がりになっているのもそのためだ プリウスを真横から見ると、リヤウインドー下端を高い位置に維持するためにボディデザインで苦労していることがよく分かる。サイドウインドー下端のラインが極端に後ろ上がりになっているのもそのためだ

 例えば、プリウスだ。ボディの下面のほとんどを整流パネルで覆って平らにすることで気流を整え、流速を上げている。上手に設計すればボディ上面にウイングを設けずに前後輪をバランス良く路面に押しつけることができるわけだ。プリウスは燃費の世界チャンピオンでなくてはならない宿命なので、空力の優先度が高いパッケージにできる。

 ところが、乗用車はどうしてもパッケージングが優先される。室内空間を広く採ろうとすればルーフの高さが上がり、結果的に後ろ下がりシェープのリヤウインドー周辺で気流の流速が上がってしまう。プリウスではサイドウインドーの下端ラインを思い切り後ろ上がりにしてリヤウインドー後端の位置をできる限り高くし、ルーフと後端の高低差を減らしている。フォーマルなスタイリングを要求されるクラウンと比較してみると、その違いがよく分かると思う。特にフロントウインドー下端とリヤウインドー下端の位置を見比べると分かりやすいだろう。

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