新型プリウスPHV 伸びたEV走行距離と後退した思想池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)

» 2016年04月04日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

未来をペンディングされた電気自動車

 エコカーの判定は難しい。純粋に損得だけの話をするなら、最新Bセグメントあたりの低燃費ガソリンエンジン搭載モデルが最もコスト対効果が高い。ディーゼルもハイブリッドも、ましてやプラグインハイブリッドも、そのコスト差を吸収することは難しいだろう。

 しかし、都内だけに限って言えば、もはや損得ではクルマを所持する理由がない。移動のたびにタクシーを使うか、カーシェアリングを使う方がはるかにローコストだ。つまり、クルマを所持することによる精神的充足に価値を見出すしかない。郊外では同じ理屈で軽自動車が一人一台普及することになっているわけだ。

 となれば、採算に合わないエコカーをわざわざ買うのは社会的意義を感じてのことになるだろう。ところが、何が一番環境効率が良いのかを考えようとすると、今度はインフラの話に立ち入らねばならないからややこしい。

 スマートグリッドとその構成部品としての電気自動車は原子力発電を前提としたものである。原発は一度稼働させると停止が難しく、出力もコントロールしにくい。電気使用量のピークである真夏の昼間をカバーしようと思えば、夜間の電力は大幅に余る。水力発電所の水を汲み上げてエネルギーとして再生したりしているが、それもあまり効率的とは言えない。

 だったら、余った電力で夜間にクルマを充電しようという考えに則り、21世紀型のスマートグリッドと電気自動車は考案された。ところが、「3.11」によって事情が変わった。筆者は原発をどうすべきかについてここで意見をする気はないが、再稼働までの道のりを考えれば、現実の話として原発前提のインフラ開発は、現状で投資マインドを刺激するとは思えない。

 電気自動車はその未来をペンディングされたままなのだ。当面のことでさえ、夜間の余剰という重大なエネルギー源を断たれた状態で、電気自動車は行き先へのルートがない。ましてやクルマが全て電動化へシフトしたとき、電力インフラは間違いなく破たんする。世界のどこの国でも、現在クルマが消費するだけのエネルギーを電力でポンと供給できる国はないのだ。「内燃機関なんてなくなりますよ」と簡単に言う人は多いが、それはイメージ論でしかない。そんな電気はどこにもない。

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