日産自動車の“二律背反”池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)

» 2016年04月11日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

女性役員で巻き返し

 日産は「トヨタと正面切って戦い続けるのは不可能だ」と悟った上で、ナンバー2戦略を打ち出した。ところが、その途端、緊張の糸が切れたかのように、国内製品へのリソースを割かなくなってしまった。そしてホンダに販売台数で逆転されてナンバー2から転落する。日産も当然この状況は自覚している。そこで、カルロス・ゴーンの秘蔵っ子の呼び声高い星野朝子専務に国内事業の総指揮を任せて、これから巻き返しを始めるとアナウンスしたのだ。

2015年に専務に就任した星野朝子氏。新たに日産の国内戦略を統率し、日産の未来を託された 2015年に専務に就任した星野朝子氏。新たに日産の国内戦略を統率し、日産の未来を託された

 星野氏は日産入社以来、クルマの購入決定に女性が関与するという視点を重視し、ボディカラー改革などを推し進めて販売を盛り返してみせた。そういう手腕が高く評価されての起用だ。

 日本を代表するダイバーシティ・マネジメント(多様性推進)企業として高い評価を受ける日産が、女性専務の指揮の下でグランドデザインをやり直すことに内外の大きな期待が集まっている状況なのだ。特に国内販売を担うディーラー網にとっては、グローバルでの成功など地球の裏側の話でしかない。国内販売で盛り返してくれないと活路が見出せない。

 難しいのは古くからの日産ファンをどう扱うかだ。「技術の日産」を標榜(ひょうぼう)し、エンジニアが「深く美しい穴」を掘って自己満足していれば良い時代は確かに終わった。それは間違いない。それに代わる新しい価値を創造していくという意味では、星野氏が最適な人材であることも恐らく間違いない。

 しかし、言わずもがなのことではあるが、技術とマーケティングは商品企画の両輪だ。星野氏の得意とするマーケティング的手法については何ら心配はいらないだろう。しかし、日産の技術をどう生かしていくかが未知数で心配になる。

 日産の技術には2つの側面がある。1つは、自動運転や電気自動車などの先進技術を生み出す研究能力。もう一方に、かつて「鬼の日産実験部隊」と言われたセッティングチームの高い能力がある。この2つが相まって男くさい日産ファンを魅了する製品ができ上がっていた。

 作ることのみに没頭してしまったことは海よりも深く反省すべきだが、それでもこれからの競争を生き抜いていくために、この先進技術とセッティング能力は自動車メーカーとしての日産の特異な魅力であることは間違いない。全否定してしまうにはあまりに惜しい。オールドスタイルの日産ファンへの目配りをするとしたらそろそろタイムリミットが迫っている。彼らは日産への期待を捨て始めているからだ。

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