実はこれは日本だけの話ではなく、世界的に、特にヤング・アダルト向け作品で「絶望」が支持される傾向が見られます。
2014年になりますが、Newsweek誌が「10代は暗い未来に憧れる」(2014年7月15日号 原題「Why Teens Love Dystopia」)という記事を掲載。そこでは、若者が国家的な娯楽として生き残りをかけた殺人ゲームを戦う「ハンガー・ゲーム」(スーザン・コリンズ)や、若者は必ず5つの属性に分かれた集団に所属せねばならず、そこからこぼれた者は異端者となる「ダイバージェント」(ヴェロニカ・ロス)など、暗い社会を描いた作品がヒットしている傾向が紹介されていました。
なぜ若者はそうした「暗い未来に憧れる」のでしょうか。脚本家、映画評論家のデーナ・スティーブンスは記事でこのように述べています。
「高校生は自分たちの世界の派閥対立や上下関係の息苦しさを、全体主義抑圧体制に見立てたファンタジーに引かれるのだ」
現代ではSNSが普及し、人間関係も洗練され、直接ぶつかることは少なくなった。ただ「みんながつながる」ということは、実はみんながひとつになるということでもあり、皮肉なことに、それもまた息苦しい。
今の世の中、こうした「息苦しさ」が共有されているために、フリーダムな社会像より、抑圧的な設定のほうがより“リアル”に受け止められるのでしょう。
実際、若者たちが巨大な壁に閉じ込められる「メイズランナー」(ジェームズ・ダシュナー)では、主人公が「おまえは調和を乱した」と批判され、仲間から命を狙われますし、日本にも進出したハーパーコリンズ社の「毒見師イレーナ」(マリア・V・スナイダー)という作品では、人の生活は「行動規範」という規則に縛られ、着る服さえ自由にならない。
「個人主義が発達している」と言われがちなアメリカの作品ですが、「調和が一番大事」とされる点で、まるで「和を以て貴しとなす」の日本の話みたいです。
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