“オヤジ”たちが今なおミニ四駆に熱狂する理由(3/6 ページ)

» 2016年05月11日 07時20分 公開
[前田靖幸ITmedia]

ファミコン vs ラジコン

 一方で問題もあった。この時代のタミヤのRCカーで遊ぶということは、マシン(組立てキット)に加えて、プロポ(送受信機とサーボのセット)とバッテリーの購入が別途必要で、安価なモデルでも計3万円以上はかかってしまうほど負担が大きかった。「小学生にこんな高額なものを」と、社内外でそうした声をしばしば耳にした。これは悩ましかった。

 時代は80年代バブルの真っただ中だったとはいえ、当時の小学生高学年の平均小遣い額が月800円に満たないのは調べていたし、3万円がどれだけ高額かも痛くしみていた。筆者も中学生のころ、お昼のパン代として毎日もらっていた250円を積み立てて、タミヤ初の電動RCカー「ポルシェ934RSR」に注ぎ込んだりしていた。イベント会場に常駐していたとき、ホーネットを一式買って、重たそうに、でも嬉々として持って帰る小学生の背中を見て、何十回も胸熱になったことを思い出す。

 そうした中で、徐々に潮目が変わっていく。本体価格1万4800円のファミコンに1本4500円ぐらいのゲームソフトを5本以上持っているような小学生が当たり前の感覚に世間がなっていくと、ラジコンが強烈に高額だという印象はいつしか希薄になり、ファミコン vs ラジコンといった企画がしばしば組まれるなど、2大超高額ホビーがコロコロコミックや学年誌にはびこるようになった。今思うと、このラジコンとファミコンが市場に登場した順序やタイミングは奇蹟だったとしか言えない。

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 とはいえ、RCカーが高額であるのは変わりがない。もっと広く手近にRCカーを印象付けるためにすべきことは何かという課題を、多くの関係者も肌で感じるようになっていった。これを受けて、当時1セット500円で既に販売していたスナップキット(接着剤を使わないはめ込み式キット)で、実写の32分の1という手のひらサイズのミニ四駆シリーズに、タミヤのRCカーのマスコット(ジュニア)をラインアップすることになったのである。

 しかし、同じミニ四駆シリーズといっても、それまでのミニ四駆とは全く設計も特性も異なるものにした。当時のRCカーをイメージさせるシャーシーレイアウトで、シャフトドライブのフルタイム4WDとし、ギア比の選択ができるという、高速安定走行を実現した本格的なミニチュアが完成したのだ。このレーサーミニ四駆の第1号、第2号に、「ホーネットJr.(ジュニア)」「ホットショットJr.(ジュニア)」とRCカーの名前が付いているのは、そういう事情が背景にあるからなのだ。

 現在のミニ四駆の競技会を中心的に支えている層が、ラジコンボーイも知っている40代半ばのオヤジ世代から、爆走兄弟レッツ&ゴー!!しか知らない20代後半の若手までと幅広いのは、前述したようにレーサーミニ四駆ブームの誕生がRCカーを源泉としているからである。

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