フリーマンの思考は、結果的にはブルーボトルコーヒーの経営に大きく寄与した。彼自身は自分の強みをこう認識している。
「音楽家として、私は常に壮大なアートに触れてきました。その感覚があるからこそ、日常においてもアートを発見することができます。例えば、日本にいて、ラーメン屋さんが麺の湯切りをしている動きや、喫茶店のマスターがコーヒーを淹れるときの職人としての振る舞いに、私は感動を覚えます。日本のアイスキューブのマシンから、毎回ちゃんと同じ氷が出てくることにも感動します」
そう言うと彼はスマートフォンを取り出し、最近、店の近所で見つけたという民家の郵便受けの写真を見せてくれた。スチール製の郵便受けには、人為的な錆びにより、錆びていない部分が文字として浮かび上がっていた。それが表札代わりにもなっている。
「これを作るのに、そんなに時間はかかっていないかもしれない。でも、こういうことに意識を集中させていることが素晴らしい」
一つ一つの発見に感動できることは、フリーマンが持つ最大の才能と言ってもいいかもしれない。だが、そんなフリーマンのアーティスト性が、いつもビジネスに結び付くわけではなかった。予算やコストといった現実的問題と、体験を追求する店舗づくり、コーヒーづくりの間では常に対立があったという。
「ブルーボトルコーヒーを始めてからたくさんのストレスがあったのは事実です。でもビジネス上の困難は、音楽家時代に味わったものに比べれば大したことはありません。オーディションに落ちたり、演奏したいと思った場所で演奏できなかったりと、当時は自分の目の前のドアが閉まっていることが多かった。でも、ブルーボトルコーヒーを創業してからは、(サンフランシスコにある)フェリービルディングのファーマーズマーケットに出店したいと思えばできたし、ニューヨークや日本にも出店が叶った。その時々で正しい人に出会えたことでドアが開けられたのだと思います。日本でもいいスタッフに出会えたおかげで、こうして店をオープンできたし、今もしっかりとオペレーションできています」
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