決算発表と2人の巨人 鈴木修と豊田章男池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)

» 2016年05月16日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 豊田社長はどうだろう。最も反省しているのは「市場の変化にスピーディーに対応するためにはトヨタは大きくなりすぎた」ということだ。巨人・トヨタは小回りの効かなくなった自らの巨体に苦しんでいる。そこで、新たに7カンパニー制を導入し、意思決定の精度と速度を高めていくと言う。従来「機能軸」で分かれていた組織を「製品軸」に組み替え、中短期の商品計画や製品企画を各カンパニーに移行し、責任と権限を各カンパニーの長に集約することで、企画から生産までを一貫したオペレーションで行うシステムに改変した。つまり大きくなりすぎたトヨタを7つの会社に分割するという考え方だ。

分かりやすすぎて伝わりにくい「もっといいクルマづくり」というキーワードをしつこく繰り返すことで、トヨタのイメージは変わり始めた。豊田章男社長の改革が成功すれば世界のクルマが変わるかもしれない 分かりやすすぎて伝わりにくい「もっといいクルマづくり」というキーワードをしつこく繰り返すことで、トヨタのイメージは変わり始めた。豊田章男社長の改革が成功すれば世界のクルマが変わるかもしれない

 しかし、組織の形だけ変えて意思決定の精度と速度が上がるなら苦労はない。それを実際に行うのは人だ。カンパニー制を運営していくための人材育成なくして改革はできない。トヨタは部長級を中心として研修制度を見直した。それは「幹部候補生としての脱皮」を促すことだ。

 組織を分割すれば、それぞれに意思決定機能が必要だ。しかも、速度を上げるにはスリムアップするしかない。それは本来的な意味でのリストラクチャーだが、高い確率で人や組織を整理するという苦渋の選択を伴う。そうした難しく厳しい決断を無責任に提言するだけでなく、自分事として主体的に行う覚悟を養成するための研修が始まっている。それは経営陣の苦悩を身をもって知るということでもある。

 一方、経営陣とて例外ではない。トヨタは2009年に29人いた取締役を11人に減らした。併せて2013年に設立した戦略副社長会の役割を変え、中長期戦略策定の機能を持たせた。戦略副社長会は首脳陣と各カンパニーの連絡を強化し、7つに独立した組織を1つのトヨタにまとめることだ。ボトムアップとトップダウンという相反する性質の情報伝達をつなぐハブとして重要な管制塔になるだろう。

 そうした改変の先に何があるのかと言えば、豊田社長が繰り返し言い続けている「もっといいクルマ」だ。もっといいクルマをスピーディーに作り出していくことで持続的成長を維持する。2020年にはトヨタの新車の50%がTNGA(Toyota New Global Architecture)を採用する予定だという。

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