しかしそのためには当然ながら継続的な研究開発費が必要だ。それをどうやって稼ぎ出すのか? 豊田社長は「そのためのコスト低減と営業努力だ」と言う。コスト低減の先のビジョンはずっと以前からあったのかもしれないが、少なくとも筆者はトップの言葉として初めて「良いクルマを作るためのコスト低減」というビジョンを聞いたと思う。
鈴木会長と豊田社長という日本の自動車産業を代表する2人のカリスマが、奇しくも過去のクルマ作りを反省し、変わっていくためには良いクルマを作らなくてはならないと発言した。
日本は今「デフレ慣れ」と言う深刻な病の最中にある。企業は適正な人件費を払わず、顧客は商品やサービスに適正な対価を支払わない。企業が賃金を上げないから消費が伸びず、消費が伸びないから賃金が上がらない。もしかしたら出口のないこの暗黒の循環の鎖を、良いクルマ作りのための投資が断ち切ってくれるかもしれないと、筆者はわずかに期待する。
まだまだその光は心細いものだが、その光明がわずかでも見えたと言う意味で、後に振り返ったとき、2016年がターニングポイントであってほしいと思う。
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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