NTTドコモと東松島市はもともと交流が深い。きっかけは、2011年に起きた東日本大震災だ。同年の12月に復興支援組織として「東北復興新生支援室」が被災地に発足し、現在も現地で継続的な支援活動を行っている。そのうちの一つが東松島市だった。
東松島市を産地とするカキは品質が高いことでも知られており、実は広島や北海道などで販売されている多くのカキは、東松島市の種ガキ(養殖カキの種苗のこと)を育てたものだという。その東松島市のカキの養殖漁場「東名浜」は震災当時、大打撃を受けた。半年後には養殖を再開できたのだが、翌年ある問題が浮上する。種カキの収穫が思うように行かなくなったのだ。
「震災後、海の状態が変わってしまったそうです。どう変わったのか本人たちも分からないけど、とにかくそれによって今まで経験で予測できたことが、できない状況になってしまったのです」(山本氏)
海の状態を見える化する必要がある――その中でも「水温の見える化」が極めて重要だった。
カキの養殖では、ホタテの貝殻を海に沈め、種ガキを付着させて育てる(筏垂下式養殖)のだが、その付着させるタイミングは、水温と気温を足して50度になる時期を目安にしている。このタイミングを間違えると、種ガキが付着する前にカキの天敵であるムール貝が付着し、繁殖してしまうのだ。そうなればカキが育たなくなってしまうため、最大のリスクとされている。
また、ある程度成長した種ガキは沖に移すのだが、このタイミングも水温が目安になる。このように、カキの養殖のさまざまな工程において最も重要になるのが、水温なのだ。漁師たちは、その重要な水温の見極めを今までの経験や勘に頼っていた。もちろん、水温計測は行っているのだが、船で各養殖場まで行かなければ測れない上に、海が荒れてたり、業務が多忙で手が空いていないときも測ることができない。そのため、水温を逐一チェックすることができていなかったのだ。
しかも、測った水温データは紙に手書きで記録され、漁港の壁に貼り付けることで共有していた。データの蓄積もできなければ、分析もできなかった。
「彼らは結局、長年積んできた経験や勘を頼りに養殖事業を行っていました。例えば、種ガキを採取する(付着させる)時期は『ゆりの花が咲くころに……』、沖に出すタイミングは『3月に前半に……』といった具合です」(山本氏)
しかし、2011年の震災後、突然海の状態が変わってしまい、その感覚が通用しなくなってしまった。今までは考えられない事態だという。東名浜のカキ養殖業者たちには、「海の見える化」が早急に求められていた。そこで、もともと彼らと交流があったNTTドコモが「ICTブイ」でそれを実現しようと動き出したのだ。
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