この「海の見える化」には、生産性を高める他にも大きな意義がある。それは、若い人や未経験者が水産事業に参入しやすくなるということだ。
現在、約17万人の漁業就業者は毎年1万人ずつ減ってきており、高齢化が進んでいる。「このままでは、国産の安全な魚・水産物を確保することが難しくなってしまう」(山本氏)
あらゆるデータが蓄積されれば、さまざまな知見が生まれてくる。ICTブイの実証実験の例のように、データが漁業をサポートしてくれることで、長年の経験を必要としなくても漁業を行うことができるようになる。また、水産業界に対するイメージが変わっていくことにもつながると山本氏は語る。
「新規参入者がなかなか現れないのは、「キツそう」「かっこ良くない」「収入が多くない」といったマイナスイメージを持たれていることも少なからず関係していると思います。しかし、漁師たちがデータを駆使して働くようになれば、そのイメージも少しは変わっていくかもしれない。地元の子どもたちに、漁師はテクノロジーを使いこなすかっこ良い職業というイメージを持ってもらいたい」(山本氏)
また、データを活用した生産は商品の品質を良くさせる。「商品価値が高まれば当然、漁師の収入も上がっていくでしょう」(山本氏)
同社はまず、全国のカキと海苔の養殖事業者にICTブイの活用を広げていき、その次に比較的養殖方法が似ているホタテの養殖事業者にも展開していくという。いま、多くの養殖事業者、水産事業者からICTブイに関する問い合わせが頻繁にくるなど、この取り組みには多くの関心が寄せられているそうだ。
「今は生産者同士のネットワークもあるので、一度成功すれば、広がっていきやすいでしょう。1年間通してしっかり実験し、今後どんな追加機能が必要になるかを検討し、来年のビジネス化へと進んでいきます」(山本氏)
5年後、10年後の子どもたちが持つ水産業界のイメージは、今と大きく変わっているかもしれない。
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