「中立である」はずなのに……。なぜ米国のメディアは特定の候補者を支持するのか世界を読み解くニュース・サロン(4/5 ページ)

» 2016年05月26日 08時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

米ジャーナリズムの独特な気質

 では新聞社はなぜ、そんな誤解を招きやすいことをするのか。本来のニュース記事に誤解を生じさせかねない編集委員の論説を載せるのはそんなに大事なことなのか。ここに日本人なら理解しにくい米ジャーナリズムに独特な気質がある。

 1つには地域への貢献という側面がある。日本と違って、国土の広い米国の新聞は州や地域ごとに発行されており、メディアは読者のコミュニティーに近い。だからこそ、新聞社もコミュニティの一員として声を挙げ、存在や見解を示す必要がある。ニューヨークタイムズ紙の編集委員の1人は、「候補者のエンドースメントは、読者に特定の候補者への支持を求めるものではない。それよりも私たち新聞が感じている“市民対話に参加する義務”を果たそうとしているのです。特に新聞社は、自分たちが取材などで得る『見識』を読者と共有する義務を負っているのです」とエンドースメントの賛否について語っている。

 またメディアとして支持者を表明することが、議論のスタート地点になる。報道ニュースでは流されてしまうかもしれないが、意見表明なら議論を促すことができる。それが、新聞を読んでくれるコミュニティへの貢献にもなるということだ。

 こうした理由から、新聞社は大統領選挙だけではなく、地元の地方選などでも支持候補を表明するのである。

 ただ今、このエンドースメントという新聞の文化が衰退の一途をたどっている。

 それもそのはずだ。読者からすれば、同じ新聞紙面に論説とニュースが載ればその違いは分からないだろう。日本でも「NYT紙、クリントン氏とケーシック氏を支持 大統領選」(参照リンク)などと報じているが、編集委員もニュース部門も関係なくひっくるめて、「NYT紙」が立場を表明したと受け止めてしまうだろう。

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