SNSが普及したことによって、それまで高嶺の存在だった花形の有名選手たちと気軽にコミュニケーションを取れる時代にもなった。選手がより身近になればファンは応援もしやすいし、親近感も覚えやすくなるだろう。逆に選手側にとってみれば、距離間が縮まることで固定ファンを喜ばせ、新たなファンの獲得も狙える。そういう意味においても昨今の傾向は両者にとって、とても有益なことだと思う。
だが、その半面で危険な要素もはらむようになってきた。それこそ今回の事件の犯人のように身近な存在だからと勝手な妄想を膨らませることによって選手に一方的な思いを募らせたり、あるいは一挙一動のプレーや試合結果に不満を抱いたりして、イリーガルな暴走行為を取ってしまう人間がいつ出てきてたとしてもおかしくはないからだ。
実際にプロスポーツの世界ではSNS全盛の以前からも選手が何らかの憎悪の対象となって事件やトラブルに巻き込まれ、直接危害を加えられるケースがいくつか発生している。サッカーでは、試合の結果が引き金となって過去に殺人事件も起こった。思い起こされるのは1994年のワールドカップ・米国大会。この大会期間中に起こった「エスコバルの悲劇」だ。優勝候補と目されていたコロンビア代表は米国戦でDFアンドレス・エスコバルのオウンゴールで先制点を与え、1-2で敗戦。この黒星によって1次リーグでの敗退が決まると、同代表チームは国内から一斉に批判の矢面に立たされた。
代表チームの大半はバッシングが収まるまで米国内にとどまることを決意したものの、エスコバルだけは自身がオウンゴールについて国民やメディアに話す義務があるとして帰国。だが、皮肉にもこの正義感の強さが後のワールドカップ史上最悪とも言われる悲劇を招くことになってしまう。
コロンビア帰国後の同年7月2日。深夜にバーを出たところ、エスコバルは12発もの凶弾によって命を奪われてしまった。当局によって逮捕された犯人は銃撃の直前に「オウンゴールをありがとう」の言葉を口にしたとも言われているが、凶行に及んだ犯人の動機がコロンビア代表の敗退により賭博で不利益を被ったマフィアの一味としての報復行為なのか、個人的なものなのかはいまだ明らかにされていない。享年27歳――。仮にこの事件に巻き込まれていなければ、彼はイタリア・セリエAの名門ACミランに移籍することが決まっていた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング