高齢化時代の福祉車両池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)

» 2016年06月06日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]
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 今や福祉車両の開発は自動車メーカーの社会的使命でもある。今までは例外に過ぎなかった福祉車両の販売台数が増えつつある現状、これまでのような、手作業での改造工程を組み込むと、爪に火を灯す思いでモジュール化したメリットが吹き飛んでしまう。

はね上げシート はね上げシート

 クルマの基礎的開発段階から福祉車両に対しての配慮が組み込まれるようになってきたというのがこの15年の流れだ。一例だが、トヨタは設計チームが作り上げた完成車を起点に福祉車両の開発チームが動き出すという仕組みを変え、基礎開発のチームにこの福祉車両のチームを合流させた。

 そうすることで、後々福祉車両化するための労力が下がり、最初から福祉車両のための要素が盛り込まれることで、対応できる可能性が広がった。今後TNGAで登場してくる新型車の開発はそういう新組織で行われてくることになる。

 その結果、こうした福祉車両とベース車両との差額が縮小しつつあり、かつ機能が向上してきている。かつては、大改造の結果、リセールバリューが限りなくゼロになってしまう介護車両だったが、現在ではオプションパーツを取り外すだけでベース車両に戻して、普通に相場価格でリセールできるようにもなってきた。ようやく大きな負担を負わずに福祉車両を作ったり買ったりできる体制が整いつつあるのだ。

 もちろん、もっと先には運転者が完全に不要な自動運転という未来もある。そうなれば社会の負担はもっと軽減できるだろうが、情勢は待ったなし。法整備や社会システムの改革が必要なものをただ待っていても仕方がない。今作っているクルマで何ができるかをまずはしっかり進めて行かなくてはならない。高齢化社会における自動車の役割はとても大きいのだ。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。

 →メールマガジン「モータージャーナル」


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