自動車デザインの「カッコいい」より大事なもの池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)

» 2016年06月20日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

空間設計のあり方

 クルマには人が乗る。だから最初に人が気持ち良く収まらなくてはならない。大事なのは頭の位置だ。もっと正確に言えば目の位置が基準になる。

 シートに座ったとき、車内空間の適切な位置に頭を収めることができるかどうかが重要だ。フロントガラスやサイドガラスの圧迫感を感じないか、頭上に十分なクリアランスがあるか。これらはクルマの中にいる時間を快適に過ごせるかどうかと直接かかわることである。

 ここで気を付けなくてはならないのは、快適感を感じるクリアランスは個人差があるということだ。人によって圧迫感の許容レベルは異なる。会話のときの顔と顔の距離が人によって違うのと同じだ。近すぎれば嫌な感じがずっとする。チェックしようという気持ちさえあれば、一番落ち着く位置は誰でも直感的に分かる。

 次に視野だ。クルマの周囲はもちろん、運転に必要な計器類を無理なく見渡せるかどうかも重要である。と、ここまで読んで「シートを調整すれば済む話だ」という意見は当然出るだろうが、本来は空間の中の頭の位置を保った状態でシートを調整して、ペダル類とハンドルが適正な位置に合わせられなくてはならない。

 しかし、頭の位置が正しく保てるかどうかはパッケージの問題なので、クルマ選びそのものでしか解決できない。クルマ選びでは頭の位置の収まりのチェックこそ最初に行うべきなのだ。繰り返すが、収まりが悪いということを我慢する選択もありだ。スポーツカーのようなクルマはある程度の圧迫感を許容しない限り乗れないものもあるし、多少なりとも慣れで克服できる場合もある。無理なく快適ならそれに越したことはないが、仮に多少の我慢をするならば、自分がそれを我慢しているという感覚があった上で選択すべきという話なのだ。

 クルマが決まってしまえば頭の位置をチェックしても仕方がないので、次善の策としてクラッチペダルかブレーキペダルを基準にシートを合わせ、それを基準にハンドルを調整することになる。このときペダル類やハンドル中心のオフセット(中心ずれ)はかなりまずい。それは道具として人を中心に考えられていない証拠だからだ。設計は数多くの要素のバランス取りだから、パラメーターの振り分けになる。そのとき「運転姿勢の無理は乗る人に引き受けてもらう」という割り切りが行われたということになる。そういう割り切りができるエンジニアは、ほかでもそういう割り切りをする。

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