自動車デザインの「カッコいい」より大事なもの池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)

» 2016年06月20日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

視覚情報は十分か?

初代レンジローバーの内装。シートを極端に窓側に寄せているのが分かる。丸木橋を渡る様なギリギリの車両感覚が求められる場面では、窓から前輪を直接目視して運転することができる 初代レンジローバーの内装。シートを極端に窓側に寄せているのが分かる。丸木橋を渡る様なギリギリの車両感覚が求められる場面では、窓から前輪を直接目視して運転することができる

 次に重要なのは視界と車両の見え方だ。運転操作のほとんどは視覚情報に依存する。前後左右の見え方、そしてその枠となる窓のオープニングラインの形状やボンネット、フロントフェンダーの見え方だ。

 例えば、レンジローバーにはコマンドポジションと呼ばれる独特の運転席配置がある。シートを思い切りドア側に寄せて座面を高く取り、背もたれを垂直に近く立てる。対照的に側面窓のオープニングラインは低く取ってある。

 これにより、窓越し、あるいは窓から顔を出して、前輪を目視できる。道なき道を走るために必要な視界性能だ。背もたれが倒れていれば窓から顔を出すのに腹筋で体を起こして支えなくてはならないが、直立に近い姿勢であれば、腰で支えられるため上体の自由度は高い。高い座面位置によって、普通に座っていてもボンネットの左右両角がはっきり目視できる。近年の自動車は側突安全性テストの影響でシートをドアから遠ざける傾向にあり、それはそれで大事なことだが、車両感覚をつかみやすいこともほぼ等価に大事なことだ。

 トヨタ・パッソとダイハツ・ブーンもこの車両視認性については非常に積極的に取り組んでいる。ボンネットの面構成が平面的で、かつ水平に取られていることで車両前端の位置が把握しやすい。サイドウインドーの下端のラインもしっかり水平に引かれていて、駐車時に車両の向きが掴みやすくなっている。パッソ/ブーンは道なき道を走るわけではないが、毎日の下駄代わりに生活道路を走り回る道具として、視界設計の優れた例の1つだと言える。

パッソ/ブーンのパッケージ。ボンネットの水平面を増やし、サイドウィンドーの下端ラインを水平にするなど、裏路地でも車両感覚をつかみやすいための工夫がなされている パッソ/ブーンのパッケージ。ボンネットの水平面を増やし、サイドウィンドーの下端ラインを水平にするなど、裏路地でも車両感覚をつかみやすいための工夫がなされている

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