なぜ世界各地の都市で「夜の市長」が注目されているのか世界を読み解くニュース・サロン(2/4 ページ)

» 2016年06月23日 08時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

昼間にないトラブルが存在

アムステルダムのナイト・メイヤーとして活躍しているミリク・ミラン

 アムステルダムは世界的にも夜の町として知られている。飾り窓に売春婦が並ぶネオン街の赤線地帯はあまりにも有名だが、夜でも合法ドラッグを扱うコーヒーショップは200軒もあり、大盛況である。またパーティーの街としてもアムステルダムは知られており、クラブ文化も盛り上がっている。

 だが夜間の経済活動には昼間にないトラブルが存在するものである。酔っ払いや騒がしい集団、ケンカや騒音、さらには嘔吐物などで衛生的にも問題が出る。近隣住民などから苦情が出れば、行政としては営業時間などを制限するなど規制を強化するしかない。とはいえ、アムステルダムを中心とするオランダの夜の経済活動は年間7億ドルを超える規模であり、1万3000人ほどの雇用も生んでいる。またクラブなどは、ミュージックやダンスといった文化を担っているという部分もある。夜の経済も市の財政や文化に貢献しており、それを単純に制限してしまうのは賢明ではない。

 ならば、静かで平穏な夜を過ごしたい人たちと、活力あるナイトライフを楽しみたい人との間にある溝を埋めるしかない。それを期待して生み出された役職が、ナイト・メイヤーなのである。

 アムステルダムのナイト・メイヤーは、35歳のミリク・ミランだ。世界初のナイト・メイヤーであるミランは昼間の市長と違って、従来の投票で選ばれたわけではない。そもそもアムステルダムは2003年から夜のトラブル対応や都市活性化のために取り組みを行ってきた。そして2014年、クラブのプロモーターをしていたミランがNGOを設立してナイトライフに関連した活動を始めると、2014年には、夜間にビジネスを展開する経営者らの投票とインターネットによる市民の投票で、ミランがナイト・メイヤーに選ばれた。彼の給料は市と経営者らが支払っている。

 ナイト・メイヤーは、昼の市長とは違って、市政において公式な権力は持たない。ミランは夜の世界で働いてきたからこその専門性と説得力で、政府や行政、住民やナイトライフの担い手たち(クラブ経営者など)との間に立ち、取りまとめや政策立案などを行う。

 ミランはメディアの取材にこう語っている。「役所のオフィスにいてナイトライフの文化について精通するのは本当に難しい。何が行われているのか見当もつかないのに、文化を守れるはずがない」

アムステルダムで開催された「ナイトメイヤー・サミット」

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