知られざる、金沢工業大学の巧みなマーケティング戦略(2/3 ページ)

» 2016年06月28日 06時30分 公開
[竹林篤実INSIGHT NOW!]
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規模拡大で生き残りを図る

 一方で大規模私大(収容定員8000人以上)は、定員増に動いている。2017年度の入学者については、全国44私立大から前年の2倍に相当する7354人分の増員申請があった。ちなみに京都では立命館大学が472人、龍谷大学が154人の増員予定となっている。全国トップが近畿大学の920人だ。

 都市圏の大学が増員すれば、18歳人口は確定しているのだから、ゼロサムゲームで地方大学にしわ寄せが行くだろう。だからといって大都市の私立大学が安泰かといえば、決してそんなことはない。大阪にある追手門学院大の理事長は、「いずれ私立大の半分くらいは淘汰(とうた)される。これからは、社会の要請に適合した大学だけが生き残る(日本経済新聞、2016年6月20日朝刊)」と、冷徹な認識を示している。

 では、社会の要請に応えるとは、どういうことだろうか。要請を「ニーズ」と言い換えれば、マーケティングの考え方を応用できることが分かるはずだ。

「就職支援に熱心に取り組んでいる」1位評価

 そこで冒頭に紹介した、金沢工業大学(以下、KIT)の話となる。日経キャリアマガジンが毎年、「価値ある大学就職ランキング」を発行している。これは全上場企業の人事担当者を対象として、大学を評価した結果をまとめたものだ。

 そこで「就職支援に熱心に取り組んでいる」で1位評価、「授業の質の改善に熱心に取り組んでいる」で3位評価を受けたのが、KITである。同大学は国公立も含めた総合ランキングで30位、私立大学部門では8位と高い評価を得ている。

 なぜ、地方の、私立の工業大学が、それほどまでに高い評価を得ているのか。答えは、マーケティング戦略にある。KITはいち早く、1995年の学長交代と同時に大胆な大学改革をスタートした。当時は少子化など、まだ影も形もない時代である。KITも定員の10倍程度となる1万人の志願者を集めていた。けれども、その時点でも一つ確定していた未来が見えていた。18歳人口の将来予測である。

 1995年に18歳を迎える子どもたちは、1977年生まれである。その数は、およそ180万人ぐらいいた。ところが、1977年から1995年までの間の出生数の推移を見れば、この18年間で50万人ぐらい減っている。18歳人口減、すなわち少子化は、今ほど騒がれていはいなかったものの、当時から既に明らかな傾向が出ていたのだ。

 マーケティングの基本のキ、PEST分析の中でも、将来人口推移は確定した未来である。そこでどれだけロングレンジで物事を見るかによって、戦略の立て方は変わってくる。

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