行政から取り締まりを受けなかったとしても、立ちふさがる大きな問題がある。それが民事。近隣住民や大家との関係が悪化し、営業ができなくなってしまうことは「民泊トラブルあるある」だ。最初に紹介したAさんも、まさに民事的な問題が発生し壁に衝突した例だ。
近隣住民とのトラブルは、「騒音」と「ごみ出し」が頻繁に発生する。騒音は言うまでもないが、ごみ出しは旅行者を対象にした民泊ならではの問題が起こりやすい。
訪日客の「爆買い」は既におなじみだが、多くの民泊利用者はたくさんたくさん買い物をしている。トランクにできるだけ物を詰め込むために、包装紙は全て捨てる――そのため、ごみが大量に出るのだ。
民泊で出るごみは、家庭用ではなく事業系廃棄物となる。マンションのごみ捨て場に捨てるのはNGで、有料で処理する必要がある。しかし、民泊利用者が廊下に放置したり、分別をきちんとしていなかったり、民泊運営者が家庭用ごみとして捨ててしまったり……といったことから、トラブルに発展していく。悪質な清掃請負業者に依頼してしまい、そのせいで問題が起きるケースもある。
民泊の運営者にとって、マンションのワンルームはビジネスの場。一方、近隣住民にとっては生活の場だ。「友達の家に泊めてもらってると言ってくれ」と利用者に頼んだりして隠しても、民泊として運用していることは遅かれ早かれバレてしまう。
民法では、賃貸物件を大家の許可なく第三者に「又貸し」することは「無断転貸」だと考えられ、契約違反になる。大家から見れば、旅行者を継続的に泊めることは、その無断転貸にあたる。
最近はトラブルを避けるために「民泊禁止」と銘打たれた物件も増えてきたが、民泊が無断転貸だと見なされればそもそも契約違反。大家から中止の要請があれば、従わなくてはならなくなる。
また、マンション標準管理規約によると、民泊が規約違反に該当するかどうかははっきりしていない。もしマンション管理組合からNGが出ても、民事裁判を起こして「民泊は規約違反にあたらない」と認められれば営業が可能になる。しかし、個人が行うビジネスでは、そのような時間やお金をかけていられないのが実情だ。
加えて、近頃増えてきているのが外国人によるマンションの運用。「外国では原則転貸がOKなので、日本の法律を理解しないまま、外国基準でビジネスを始めようとする人がいる」と石井さんは語る。
石井さんは民泊に関する相談を受け付けているが、やって来る人たちの多くが近隣とトラブルになって保健所や警察からの指導が入り、「このままでは運営できなくなるので、旅館業法の許可を取りたい」というケースが多い。
「ただ、そういった場合、9割が旅館業法や建築基準法上の基準に満たない。残る1割も特に施設面でコストをかけて整備する必要があり、それを告げると『じゃあ辞めます』という人も多い」
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