「ベーシック・インカム」は日本を元気にする秘策になるかマネーの達人(2/5 ページ)

» 2016年07月14日 06時30分 公開
[完山芳男マネーの達人]
マネーの達人

大きな改革が必要な社会保障制度

 社会保障制度の改革は、高齢化が進む世界の主要国にとっては共通の課題である。財政状況はもちろんのこと、出生率、平均寿命、人口構成、さらには社会情勢や国民性など各国で事情は異なるだろうが、いずれの国においても社会保障制度は大きな改革を求められており、国家財政のみならず国の行く末を左右する深刻な問題である。

 社会保障制度の効率化や持続性の問題を考える際、欧州でしばしば議論に上がる社会保障サービスのあり方として「ベーシック・インカム」という考え方がある。ベーシック・インカムを一言で説明すれば、政府が国民全員に最低生活保障として定額の現金を支給する政策だ。

 年金や生活保護などの社会保障支出が、ベーシック・インカムに一元化されれば、行政の無駄を大幅に削減できることが期待できる。大人も子どもも等しく、国民1人1人へ機械的に現金が支給されるので、保険料納付など年金を受給するための条件を設ける必要はないし、生活保護の給付を受けるためのさまざまな手続きや自治体との駆け引きも基本的に要らなくなる。

ベーシック・インカム制度は日本に適用できるか

 公的年金制度をそのままベーシック・インカムに置き換えることはあまりにも乱暴だと思われるかもしれないが、そもそも世代間の賦課方式である年金給付は、年齢による差別がある生活保護給付だと見ることもできる。高齢で元気な人もいれば、若くても健康に問題があり十分に働けない人もいる。つまり、公的年金において国民を年齢で区別するのはフェアではないと考えられる。

 ベーシック・インカムで大きな問題となるのは、支給金額である最低生活保障をいくらにするかだが、日本では国民1人あたり月額6〜7万円あたりが妥当かもしれない。なぜなら、現在の国民年金(老齢基礎年金)の受給額が満額およそ年額78万円で1カ月あたり約6万5000円だからだ。

 また、この制度を年金保険料でなく全て税金でまかなうには、消費税率を大幅に引き上げることや、相続税をはじめとする資産課税の強化などが考えられるが、所得税率を一律45%程度にすることで、財源は十分に確保できるという専門家の意見もある。もちろん、ほとんどの国民はベーシック・インカムだけでは普通の水準の生活はできないので、別途働いて収入を得る必要がある。

 老後の生活費も同じく、基礎年金額相当のベーシック・インカムだけではまかなうことはできないので、個人型確定拠出年金のような老後に備えた自助努力を支援する制度を追加で整備すれば補完することができるだろう。

 なお、ベーシック・インカムは現金を国民に給付するので、その使いみちは個々人の自由である。食費や子どもの教育費、寄付、たとえギャンブルに使っても構わない。お金の使いみちに関して国は一切介入をしないというのが、ベーシック・インカム制度の基本なのである。

(写真と本文は関係ありません)

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