振り返れば見えてくる 孫正義の買収哲学とは?加谷珪一の“いま”が分かるビジネス塾(2/4 ページ)

» 2016年08月01日 06時00分 公開
[加谷珪一ITmedia]

Yahoo!への出資が成功したことで、現在の基本スキームが確立

 確かにCOMDEXやZiff Davisの買収は事業としては大きな果実にはならなかった。だが、当時のIT業界におけるCOMDEXの存在感は極めて大きかった。毎年ラスベガスで開かれる展示会にはマイクロソフトのビル・ゲイツ会長などIT業界のスターが集まり、そのスピーチには全ての業界関係者が耳を傾けていた。COMDEXは秋に開催されるのが恒例だったが、翌年のIT業界のトレンドがここで決まるといっても過言ではない状況だったのである。

 孫氏は、COMDEXなどの買収を通じて、IT業界におけるプレゼンスを手に入れたかったのだと考えられる。実際、彼はCOMDEXのオーナーとして、IT業界の中枢に入り込むことに成功した。これは日本人としては極めて異例のことである。COMDEXのオーナーであることと、米Yahoo!への出資は直接関係しなかったかもしれないが、COMDEXというIT業界へのパスポートがなければ、Yahoo!を発掘することは難しかっただろう。

 ソフトバンクはYahoo!の株式の約30%を保有する大株主となり、Yahoo!が上場したことで同社には巨額の含み益が転がり込んできた。Yahoo!の時価総額は一時10兆円を突破していたので、ソフトバンクには3兆円以上の財務的余力が生じることになった。またYahoo!とソフトバンクの合弁会社であるYahoo!の日本法人も上場に成功したことで、同社には、さらに大きな含み益がもたらされた。投資した企業の含み益をテコに大型買収を展開するというスキームはこの時代に確立したものである。

 Yahoo!に続いて打ち出の小槌となったのは、何といっても中国のECサイト「Alibaba」だろう。ソフトバンクは2000年、創業間もないAlibabaに約20億円の投資を行い、3割の株式を持つ筆頭株主となった。2014年にAlibabaは米国で上場し、ソフトバンクは8兆円の含み益を得ている。今回、ARM買収における事実上の担保となっているのは、このAlibabaの含み益である。

 孫氏は、Alibabaの創業者であるジャック・マー氏と会って5分で出資を決断したと述べている。創業間もない時期だったことや、話し方や目つきなど動物的なニオイが出資の決め手になったという発言などを併せて考えると、これまでと同様、詳細なビジネスプランを前提に投資したわけではないことが分かる。

photo Alibabaの上場の瞬間(写真:Business Wire)

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