「富士そば」人気の秘密を探ってみる高井尚之が探るヒットの裏側(2/4 ページ)

» 2016年08月05日 06時00分 公開
[高井尚之ITmedia]

分社化した7社が競い合う

 富士そばの経営はユニークだ。ダイタンホールディングス傘下に、分社化した7つの企業があり、ダイタンフード、ダイタン企画、ダイタン食品、池袋ダイタンフード、ダイタンイート、ダイタンミール、ダイタンキッチンが富士そば各店の運営を担う。いずれも業務内容は「そば、うどん、カレーライス、天丼、牛丼、かつ丼の販売」だが、トップダウンではなく、できるだけ「現場主導」のスタンスを維持するために分社化しているそうだ。

 「出店も分社化した各企業の役割です。当社は専門の店舗開発部署を持っておらず、各企業の常務がこれはという出店物件を探し出し、私や会長が採否を決定します。ちなみに当社の場合、長年の実績で地元不動産店との信頼関係が厚く、空き店舗情報などをいち早く教えてもらえます」(丹有樹氏)

 これだけインターネットが発達した現代でも、繁華街の一等地の店舗情報などは、古くからビルオーナーとの付き合いが深い地元不動産店が握っていることが多い。出店するからには長年にわたる家賃支払いなどの問題もある。そうした点を信頼されており、他の飲食店との出店競争に先んじるのだそうだ。

 例えば、「駅前繁華街」といっても、人の流れによって出店の手法は異なる。若き日の有樹氏は父の視察に随行して出店手法を学んだという。

 「東京・中野北口駅前の中野サンモールには、ダイタンフードが運営する『富士そば中野店』があります。人出は非常に多いのですが、実は通り抜けに利用する人が多い商店街。こうした場所は間口を広くした店でないと集客がむずかしいのです」(同)

 長年の経験で出店成功率は高いが、もちろん失敗事例もある。渋谷センター街にあった宇田川店は、店の前を通る客層が若すぎて売り上げが伸びなかった。逆にシニア層が多い浅草仲町店では、「歴史ある下町で商売人も多い土地柄なので老舗個人店も多い。そうした場所でチェーン店が入り込むのはむずかしかった」(同)そうだ。

photo 富士そば中野店

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