「富士そば」人気の秘密を探ってみる高井尚之が探るヒットの裏側(3/4 ページ)

» 2016年08月05日 06時00分 公開
[高井尚之ITmedia]

競わせる経営で、メニュー開発も活性化

 7社に競わせるのは出店だけではない。新たなメニュー開発も各社に委ねている。全店に「かけそば」「もりそば」はあるが、それ以外は自由に開発できるという。サラリーマンの多い店ではボリュームのあるメニュー、女性客も来店する店ではヘルシーなメニューなど、立地に合わせて積極的に開発する。

 メニュー開発では社長プレゼンや会長プレゼンもなく、数人の店長を統括する係長クラスがOKを出せばメニューとして提供できる。「判断するのは会社ではなくお客さま」という視点で商品開発もスピード感を重視する。 

 過去には意外な商品もあった。例えば「揚げたこ焼きそば」は町田店、「チーズクリームそば」は御茶ノ水店が期間限定メニューとして開発したが、人気定着とはいかなかった。

 「あまり細かく言わずに積極的に開発させます。そうした中から、最近の例でいえば『ゆず鶏ほうれん草そば』のようなヒットメニューが出ればいいと考えています」(丹有樹氏)

 どんな業種であっても、新商品が出れば社内は活性化する。総じて老舗企業は守りに入りがちだが、そうした保守性を防ぐ効果もあるのだ。

 ところで「富士そばには年配の店員が多い」という声もある。ときどき利用する筆者も気になっていたので聞いてみたところ、次のような答えが返ってきた。

 「“受け皿企業”として、他社や他業界でうまくいかなかった人の応募も多いからです。当社はそうした人材に対して安定した仕事を提供している自負心はあり、毎年、勤続30年となる社員も出ています。また、少し苦労した人の方が地道な接客ができ、お客さまの満足度にもつながります」(同)

photo 「ゆず鶏ほうれん草そば」

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