「電車には乗りません」と語った小池都知事は満員電車をゼロにできるか杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)

» 2016年08月05日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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時差通勤、通勤手当見直しなどが現実的

 満員電車がなくなる日という書籍は、ダブルスタックだけではなく、折りたたみ式有料座席の提案など、ほかにも斬新なアイデアがある。おもしろいと思うけれども、イチから新路線を作るならともかく、既存路線の改良という意味では実現性に乏しい。

 ただし、こうしたカンフル剤のような提案は必要だ。まずは世間をビックリさせて、現状を考えるきっかけとなる。その議論から現実的な解を求めた動きも始まる。しかし、読後感としては、大規模な路線(ハードウェア)改良よりも、小池氏も掲げている時差通勤などの手順的な解決が現実的だと思われる。

 また、小池氏は掲げていないけれども、通勤手当の上限引き下げ、または撤廃というやり方もある。企業や通勤者の反発を買うだろうけれど、そもそも通勤手当という制度のおかげで長距離通勤が助長されている。企業は都心に集中し、ベッドタウンは郊外へ広がってしまった。通勤手当がなければ職住接近が進み、オフィスは「遠い都心」「無人の都心」から郊外へ移転する。都市集中問題も片付く。

小池氏にとって電車は珍しい体験だった? 小池氏にとって電車は珍しい体験だった?

 そして、大前提として「満員電車はゼロにして良いのか」という議論も必要だ。鉄道事業者は通勤定期という割引券を大量に発行し、割引価格で利用する大量の乗客のために車両を増やし、ホームを延伸し、複々線化などの設備投資をしている。わざわざ安い運賃の客に対して設備投資をしているわけだ。これは「究極の薄利多売システム」であり、このシステムを維持することで収支のバランスを取っている。

 満員電車をゼロにする。つまり、1両あたりの乗客数を減らすなら、一人あたりの運賃を増額しないと、これまでの設備投資に対してバランスが取れない。だから通勤定期の割引率を下げたり、廃止したりという方策も検討に値する。通勤手当の廃止とセットにすれば、人々は電車通勤の距離を縮める方向で行動するだろう。自腹で高い定期を買うくらいなら、そのカネを家賃に回し、職場に近い部屋に住んだほうがマシだ。そうなれば鉄道利用者は減り、満員電車も解消できる。そして鉄道会社の収入は減る。

 満員電車で辛い思いをしている人々には気の毒だと思う。しかし、それで成り立っている社会が東京だ。あなたが定年を迎えるまでに、満員電車ゼロ政策が実現するかは分からない。満員電車が耐えられないなら、時差通勤を実践するか、会社のそばに引っ越すか、在宅勤務に切り替えるか、何か自衛手段をとったほうが幸せになれる。

 そして何よりも、小池さん、あなたはまず「電車に乗って」ください。自分の目と、押しつぶされる身体で現状を認識してください。

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