考えていることを「見える化」する「売れる商品」の原動力(4/7 ページ)

» 2016年08月19日 05時30分 公開
[井尻雄久ITmedia]

社長の頭の中を言語化する

 不動産が抱える事情というのはさまざまです。単に親から相続した場合もあれば、先祖代々受け継いできた土地というのもあります。個人が所有している場合、法人として持っている場合もあります。なかには、今のまま放置していると災害などの際に周辺住民に迷惑を掛けかねない懸念がある物件もあります。

 大河社長のポリシーは、まず地権者がストレスを感じるような交渉は絶対にしないというものです。そして、折り合う価格で買えさえすれば、そこに何を建ててもいいというようなことではなく、元の地権者から託された思いを大切にした再生を進めることです。

 さて、まず私がおこなったことは社長へのヒアリングでした。これは延べ十数時間を重ねました。経営者自身が何をめざし、どのような企業にしたいと考えているのか。そのところを徹底的に聞き出しました。同時に、社員や、さらにはこの会社に土地を託した顧客へのヒアリングを行いました。なぜこの会社で働こうと思ったのか、なぜこの会社に仕事を依頼したのか、それぞれの思いがあるはずです。

 地権者は必ずしも一番高い値をつけてくれる会社に売るとは限らないということを大河社長はおっしゃっていました。無論、値は高いに越したことはないのですが、顧客が買取する不動産会社に求めるのは、やはり親身になって寄り添い、思いを共有してくれることなのです。

 安い価格の売買ではありませんから、一般に土地取引では売り手側の希望価格と買い手側の希望が折り合わずに何年も掛かることが珍しくありません。売り手から金額が提示されても担当者は「社に持ち帰って上長と相談します」となるのが普通です。

 しかし、ジェクトワンでは現場判断を原則としています。なぜならお客さまはその場で答えが欲しいわけで、判断が長引くことは不安を与えることになります。「社に持ち帰って」というのは、この会社では禁句なのです。可能な限りその場で協議し、その場で判断をするというのが大河社長の流儀です。

 私の次の作業としては、こういった社長の頭の中にある考え方や企業理念を言語化し、社員全員で共有できるようにすることになります。見えてきたのは、この会社のソリューション事業は、まさに“人”がシンボルだということでした。一方のリノベーション事業におけるシンボルは上質な“物件”そのものです。

 じつは、当初この「リノベーション事業」を同社では「家なか再生事業」と呼んでいました。私は社長と相談し、この名称を変えることを検討しました。というのも、お客さまにとって住まいを買うというのは人生の大切な出来事です。さまざまな判断として新築ではなく中古物件を買うとしても、やはり“再生品”という位置付けは気持ちのよいものではないでしょう。最終的には社長の判断で「上質リノベーション」というネーミングに変更しました。ちなみにソリューション部門は「街なか再生ソリューション」です。

 企業全体の理念としては「心から安心して住み続けられる『暮らし』を提供する」と掲げました。街づくりにおいても住まいづくりにおいても、小さな子どもから高齢者まで“安心して住み続けられる”ということが同社のポリシーなのです。コーポレートコミュニケーションの基軸も、この「理念」を中心に置きました。社員相互も、また金融機関や地権者といった方々とも、常に理念への共感を醸成することを第一にしていくのです。

 そのうえで、ソリューション部門は社員(=人)そのものをブランドシンボルにして「地域価値を大切にした、街づくりの実現」を事業理念としました。リノベーション部門では物件をブランドシンボルと位置付け、「誰もが安心して暮らし続けられる住まいの提供」を事業理念としました。

 企業サイトのリニューアルに当たっては、社員全員の集合写真をサイトのトップにもってくることを提案しました。まさに経営者を筆頭に“人”こそがこの会社の財産であり武器なのです。そのことをストレートに訴えかけると同時に、社員一人一人にも自分が会社の顔であり看板を背負って仕事をしていることを強く自覚してもらいたいという社長の思いをくんだものでした。

 ソリューション部門とリノベーション部門は、同じ会社内にありながら、ある意味でまったく別の仕事です。その意味では、社としての一体感を持ち、文字通りのジェクトワンとするためにも集合写真は有効だったと思います。

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