考えていることを「見える化」する「売れる商品」の原動力(6/7 ページ)

» 2016年08月19日 05時30分 公開
[井尻雄久ITmedia]

「業務」ではなく「仕事」へ

 こうした理念を共有するのは、なにも社内だけの話ではありません。例えばジェクトワンのリノベーション部門の場合、現場で仕事をするのはさまざまな職人さんたちです。床を張る人、壁を塗る人、いくつもの外部の専門職の人に仕事を委託することになります。

 その際に、社としての理念を職人さんたちにも共有していただく。「ジェクトワンはこのような理念で物件のリノベーションをしている」「このような価値をお客さまに提供する」ということを、作業をする職人さんたちに一緒に分かち持ってもらう。そのために、例えば毎日彼らが目にすることになる図面などにも、社の理念や事業ステートメントを表記しているのです。

 すると、これまでとは違う変化が現場に現れてきました。例えば、通常なら図面通りに作業をすればいいのですが、「図面ではこうなっているけれども、もっとこうしたほうが居住者には利便性が上がるのではないか」というような提案が現場の職人さんから生まれるようになったというのです。

 職人さんたちはいくつもの現場を抱えているのが普通ですから、本来なら効率重視で短時間に作業を終わらせるものです。けれども、社の理念が共有されていく中で、優先されるべきは住む人の満足であり幸せであるというふうに意識が変わっていく。ジェクトワンの仕事に対する「誇り」と「愛着」が、社外から参加している職人さんたちにも共有された瞬間でした。そのことで、誰に命じられるのでもなく主体的・内発的に、より満足のいく部屋づくりに職人さんたちが高いモチベーションをもって取り組んでいるのです。

 こんなふうに職人さんたちが思いを込めて、工夫を凝らしてリノベーションされた物件なんて、それだけで気持ちがワクワクします。そうしたさまざまな人たちの思いが込められた物件は、これまで以上に売れ行きが向上したことは言うまでもありません。

 もちろん、私がかかわる以前から同社の社員たちは細部にこだわる仕事をされていたのですが、ある意味でそれは「業務」だからやっていたところもあったかもしれません。けれども、その自分たちの努力が誰を喜ばせることになるのかが明確になると、「業務」は名実ともに「仕事」になるのです。

 さらに理念をステートメントとして明文化したことによって、社員一人一人は自分が“何のため”に仕事をするのかを再確認できたと思います。ブランディングの作業の中で、私は社長だけでなく社員の皆さんからもヒアリングをし、なぜ自分がこの会社に入ろうと思ったのかなども聞きました。

 そうしたなかで、彼らは単に「売り上げ」を伸ばすための仕事ではなく、自分たちの仕事が社会の中でどのような価値を生み出そうとしていたのか、その自身の原点に立ち戻ったと思います。

 象徴的な出来事だと私が思ったことがありました。それは、あるリノベーション物件で、いったんは床の張り替え作業も終えていたところがありました。既に張った床材で、もちろん十分な状態です。ただ、20年後、30年後を考えた際に、この床材ではもしかしたらわずかの反りが生じるかもしれない。そうなった場合、この仕事は社の理念に合わなくなってしまう。その万が一の懸念を一掃するために、もう一層別の床材で補強し張り直しをしたというのです。

 その補強費用は物件価格に上乗せできるわけはなく、ジェクトワンのコストになります。担当者が大河社長にそのことを報告すると、社長は当然のことのように「やりなさい」と指示しました。

 世間一般であれば、新築ならいざ知らずリノベーション物件であれば、そこまでのクオリティは求めないでしょう。この話を聞いて、そう判断した担当者も、それを了とした会社も、素晴らしいと思いました。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.