カンボジア代表・猫ひろしの「素顔」と「日本人帰化問題」を追う赤坂8丁目発 スポーツ246(4/4 ページ)

» 2016年08月23日 11時45分 公開
[臼北信行ITmedia]
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日本国籍に戻すのか

 しかしながら単に手放しで激賞するだけでなく、最後にもう1つ大事なことを補足しておきたい。カンボジア代表としてリオ五輪・男子マラソンに完走した猫の「今後」だ。多くの人は当然、カンボジア国籍を持ったまま今後の活動を続けていくことを求めているに違いない。だが一部からは「五輪出場という大きな目的を果たせたことで、猫は近々にも日本国籍に戻そうとするのではないか」との疑惑も飛び交い始めている。

 事実、猫にとってはカンボジア国籍へ一度変更したとしても日本国籍を再取得する段取りはそれほど難しい作業ではなさそうだ。国籍法の第8条には「次の各号の一に該当する外国人については、法務大臣は、その者が第五条第一項第一号(引き続き五年以上日本に住所を有すること)、第二号(二十歳以上で本国法によって行為能力を有すること)及び第四号(自己又は生計を一にする配偶者その他の親族の資産又は技能によって生計を営むことができること)の条件を備えないときでも、帰化を許可することができる」との文言があり、その「次の各号の一」の一文には「日本国民の子(養子を除く)で日本に住所を有するもの」と記されている。

 猫の両親は日本人で「日本国民の子」となり、日本人の妻や家族と住む家が日本国内にある。つまり法律上の問題はクリアされていることから、後は法務大臣が許可すれば猫は日本人に戻れるということになるわけだ。

 もし猫が今後すぐさま帰化申請を行った場合、世間から猛反発を食らうことは必至だろう。「他国を利用して五輪に出場するため国籍を変更しても、またすぐに日本人に戻れる」という安易な抜け道を認めてしまえば近い将来も“第2、第3の猫”が次々と現れていくに違いない。

 せっかく苦労を重ねながら夢をつかみ、そしてこれだけのインパクトを日本中にも与えたのだ。そのチャンスを与えてくれたカンボジアに猫は今後もしっかりと“恩返し”を果たしていくべきである。

臼北信行(うすきた・のぶゆき)氏のプロフィール:

 国内プロ野球、メジャーリーグを中心に取材活動を続けているスポーツライター。セ・パ各12球団の主力選手や米国で活躍するメジャーリーガーにこれまで何度も「体当たり」でコメントを引き出し、独自ネタを収集することをモットーとしている。

 野球以外にもサッカーや格闘技、アマチュアスポーツを含めさまざまなジャンルのスポーツ取材歴があり、WBC(2006年第1回から2013年第3回まで全大会)やサッカーW杯(1998年・フランス、2002年・日韓共催、2006年・ドイツ)、五輪(2004年アテネ、2008年北京)など数々の国際大会の取材現場へも頻繁に足を運んでいる。


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