選挙を不正操作しようとする、ハッカー集団の正体世界を読み解くニュース・サロン(2/4 ページ)

» 2016年08月25日 06時52分 公開
[山田敏弘ITmedia]

サイバー攻撃の犯人

 米民主党のケースでは、ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)などロシアの2つの情報機関にからむ組織が、2015年から民主党全国委員会のコンピュータに侵入していたことが判明した。犯行グループは1年にわたって民主党のサーバに潜伏しており、2万通の電子メールなどを盗み出している。そして民主党全国大会の前日(7月22日)に、内部告発サイト「ウィキリークス」でそれらのメールが公表されるに至った。

 暴露されたメールは、物議を呼ぶような内容だった。民主党全国委員会の幹部たちが、民主党内の指名候補争いでクリントンに肩入れしていたことが明らかになったのである。公平であるべき党幹部らが、クリントンの対抗馬だったバーニー・サンダース上院議員を貶(おとし)めるアイデアを相談していたのだ。結局、このリークにより、全国委員長が辞職する事態になり、民主党の信用が傷つけられ、イメージが悪化したことは言うまでもない。

 このサイバー攻撃の犯人は、2015年にホワイトハウスや米国務省、米統合参謀本部に対して行われた大規模サイバー作戦の背後にいたのと同じ組織だと見られている。サイバー専門家らによれば、今回暴露された電子メールのメタデータ(ファイルの基本データ)を見ると、ロシアのコンピュータが使われた形跡がある。もちろん、ロシア政府は関与を否定しているが、例えば米ニューヨークタイムズ紙は犯人について「ウラジミール・プーチン大統領自身が命じたか、プーチンを喜ばせようと考えた彼の取り巻きが命じたのか」と指摘している。 

 なぜプーチンが出てくるのか。プーチンは、民主党と戦う共和党の指名候補となった不動産王のドナルド・トランプが勝利すれば、国益につながると考えており、「トランプ大統領」の誕生を望んでいると言われているからだ。

 トランプはこれまで、プーチンのロシアに対して好意的な発言をしている。最も分かりやすいのが、米国も加盟してロシアに対抗するNATO(北大西洋条約機構)の扱いについてだ。トランプは、NATOの同盟国がロシアから攻撃を受けても、無条件で助けに行くことはないと示唆している。まずその国が同盟関係にどんな貢献をしているのか見極めてから助けるかどうかを決めるというのである。NATOにとっては危険なコメントだが、ロシアにとっては、ライバル集団の内輪揉めは歓迎すべき話だ。「クリントン大統領」より「トランプ大統領」のほうがロシアには与(くみ)しやすい。

トランプ候補はプーチンに対して好意的な発言(トランプのFacebook)

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