「キンドル読み放題」は書店を街から消すのか加谷珪一の“いま”が分かるビジネス塾(3/4 ページ)

» 2016年08月31日 06時00分 公開
[加谷珪一ITmedia]

出版業界独特の業界慣行が足かせに

 出版は典型的な多品種少量生産の産業であり、他の業界とは大きく構造が異なっている。例えば標準的なコンビニには2500〜3000点ほどの商品があるといわれているが、同じ売り場面積の書店には2万冊を超える本が置いてある。よほど売れている本でなければ、同じ題名の本が何冊も置いてあるわけではないことを考えると、書籍がいかに多品種少量生産であるかが分かるだろう。

 多品種少量生産でも消費者が特定地域に集約していれば流通もラクだが、書籍の購買層は全国に点在している。このため多品種少量生産の製品を全国津々浦々まで流通させる必要があり、その業務は複雑極まりない。こうした状況に対応するため、出版業界は委託販売制度という独特の流通形態を確立させてきた。

 これは、一般的な業種の卸に相当する取次と呼ばれる会社が、返品可能という形で出版社と書店との間を取り持つ形態のことを指す。書店が在庫リスクを抱える必要がないので、地方の零細書店でも経営を維持することが可能となる。一方、出版社が極めて大きなリスクを負う形になるので出版社には大きな利益が提供される仕組みになっている。取次や書店はリスクが少ない分、利益も少ないという構図だ。

 こうしたシステムは高度成長期にはうまく機能したが、出版市場はピークだった1996年を境にマイナスに転じており、既に4割も縮小している。出版社の中には大型書店と直接取引するところも出てきており、こうした独特の流通慣行はむしろ業界の足かせとなりつつある。

 このような中でアマゾンが急激に小売のシェアを拡大させてきたことから、リアルな書店の経営がさらに苦しくなった。書店で立ち読みし、アマゾンで購入する読者は確実に増えており、書店は過剰なコストを支払う図式となっている。

 出版業界の中で取次の企業規模は大きく、経営不振になった書店を買収できるのは取次しかない。取次大手のトーハンが経営難となった書店を救済するというのは、ある意味で自然な流れといってよいだろう。

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