マツダ・アクセラはマイナーチェンジじゃない池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2016年09月05日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

Gベクタリングコントロールの新しいステップ

 もう1つの重大なポイントはGベクタリングコントロールの採用だ。このGベクタリングコントロールが面白いのは、パワートレインの制御によってシャシー性能を向上させるという考え方で、クルマの運動性能を全体最適化する新しいビジョン「SKYACTIV-VEHICLE DYNAMICS(スカイアクティブ・ビークル・ダイナミクス)」の一部である。

エンジンの制御でシャシーの能力を向上させる新しい試み、Gベクタリングコントロール エンジンの制御でシャシーの能力を向上させる新しい試み、Gベクタリングコントロール

 ここからはちょっとだけ物理の講義である。4輪車は基礎的な物理特性として、前輪が応答性、後輪が安定性に寄与する。どちらのタイヤが優勢な状態に置かれているかによって、曲がりやすくなったり、真っすぐ走りやすくなったりするのである。だから、場面場面で必要な方を優勢にしてやれば、ハンドリングはあらゆる面で向上するはずである。では、どうやって前優勢にしたり後優勢にしたりするのかと言えば、タイヤの能力は垂直荷重に概ね比例するという特徴を生かしてやれば良い。

前後荷重 前後荷重
加減速によって前後輪への荷重をコントロールする仕組みで適性な車両特性を作り出す 加減速によって前後輪への荷重をコントロールする仕組みで適性な車両特性を作り出す

 唐突だが、セグウェイを思い浮かべて欲しい。あれはエンジニアリング的には倒立振り子というのだが、前へ倒れそうになれば、前進し、後へ倒れそうになればバックする。走行中の自動車の場合、バックはしないが、同じ考え方で前後輪への荷重のかかり具合はコントロールできる。Gベクタリングコントロールでは5/100秒で燃料噴射を制御して加減速Gで前後輪への荷重の掛け方を変えてやる仕組みだ。制御は加速方向では行わず、ドライバーのアクセル踏み込みに対して引き算制御のみで行う。

 想像力のある人なら、クルマが勝手に減速するのは嫌な感じにならないかと考えるはずである。しかしこの減速、ドライバーにはまったく分からない。それもそのはず、減速Gは0.005Gという聞いたこともない微細なものなのだ。

 そう言われても基準がよく分からないだろうが、助手席の人を気遣って慎重にかけるブレーキが0.1から0.2Gくらい。0.005Gは専門のテストドライバーでも分からないだろう。電子デバイスでビークルダイナミクスをコントロールするというと楽しみを奪われる気持ちになる人がいるのは想像が付くが、このGベクタリングコントロールはものすごく地味で、存在に気付くことすら難しい。だからまるでシャシーの出来が良くなっているようにしか感じない。

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