そもそも、なぜスポーツイベントで国歌が演奏されるのか世界を読み解くニュース・サロン(2/4 ページ)

» 2016年09月08日 07時12分 公開
[山田敏弘ITmedia]

米国ならではの問題

 米国には国歌演奏に関する公式な「エチケット」が存在する。1942年に法制化された米国旗と国歌にまつわる法律だ。その「国旗規範」によれば、国歌斉唱時、すべての人は起立しなければならない。一般人は国旗に向き、右手を心臓の位置に添えて、直立の姿勢で立つように決められている。帽子などを被っていれば脱ぎ、右手で帽子を左肩あたりに置くように持つことで手は心臓の位置にいく。国旗がない場合は、演奏者に向けて、国旗に向くのと同じように行動する必要がある。また国歌演奏の間、制服を着た軍人と元軍人は敬礼を続けなければならない。

 ただこれは、罰則を伴うようなルールではない。また、米国では起立を「拒否」する権利も保障されている。だが、米国のスポーツイベントに参加したことのある人なら分かる通り、このエチケットは基本的にほとんどの人が守っている。

 そんな状況の米国で話題になっているキャパニックのケースでは、その背景に米国ならではの問題がある。人種問題である。というのも、以前このコラムでも紹介したが、近年、全米各地で黒人が警官に銃殺される事件が続いているからだ(関連記事)

 2014年7月にはニューヨーク州で43歳の黒人男性が白人警官に拘束されて窒息死したビデオが暴露され、各地でデモが発生。また同年8月にはミズーリ州ファーガソンで18歳の黒人男性が白人警官に射殺されてその後1週間近く暴動に発展した。2015年にはメリーランド州ボルチモアで護送中に黒人男性が死亡し、6人の警官が処分され、暴動に発展している。2016年には、ルイジアナ州バトンルージュの駐車場で拘束された黒人男性が白人警官に射殺される事件が発生し、ミネソタ州セントポールでは黒人男性の運転するクルマが警官に止められ、男性は運転席で射殺された。

 こうした事件に対して、多くの有名アスリートが声を上げている。例えば7月に行われたスポーツイベントでも、プロ・バスケットボールの黒人スター選手であるドウェイン・ウェイドやレブロン・ジェームズなどが、暴力を止めて社会変化をもたらすよう主張した。今回のキャパニックによる起立拒否も、黒人に対する扱いについての「Black Lives Matter(黒人の命も大事)」という運動の流れだと言える。

白人警官が拘束されて窒息死したビデオが暴露された(写真と本文は関係ありません)

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