トヨタの正念場を担うプリウスPHV池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/3 ページ)

» 2016年09月12日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]
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トヨタの多正面作戦

プリウスの動力は三相である。エンジン、モーター、ジェネレーター。これら3つを遊星ギヤによって上手に作動させていた。今回はジェネレーターをモーターモードにして使うために、間にワンウェイクラッチを挿入して、エンジンに逆転駆動が掛からないように工夫している プリウスの動力は三相である。エンジン、モーター、ジェネレーター。これら3つを遊星ギヤによって上手に作動させていた。今回はジェネレーターをモーターモードにして使うために、間にワンウェイクラッチを挿入して、エンジンに逆転駆動が掛からないように工夫している

 トヨタは他社に先駆けて燃料電池車のMIRAIを市販しているが、まだ採算の取れる状況ではない。インフラ整備の面から見れば電気自動車以上に絶望的だ。トヨタがMIRAIの技術を公開した背景には、グロバールな水素技術のスタンダード争いを制した経産省、日本政府の意向もあったと思われるが、それ以上に、トヨタ以外にも燃料電池車が出て来ないとインフラの普及が進まないからだ。

 さて、少し整理し直そう。北米の理想主義的ZEV規制に従えば、完全に要件を満たすものは、電気自動車と燃料電池しかないが、燃料電池はインフラ待ちであり、そのスケジュールさえも未明なままだ。ということは電気自動車しかない。それもリーフのような短航続距離型ではどうにもならない。テスラのようにバッテリーを大量搭載するしかない。ところが、リチウムイオン電池は生産でも廃棄でも環境負荷が高い。さらに移動途中で行う急速充電はエネルギー効率が悪い。何が何でも走行中のゼロエミッションを追求することが本当の意味での環境対策になるかはかなり微妙なのだ。

 こうした北米の規制の現実を前に、トヨタが今後取っていくであろう戦術はいくつかある。既に完成しており、環境負荷が低く、実用上の問題が少ないプリウスPHVを量販することが第一だ。規制をクリアするためには、これを従来のプリウス並みに売らなくてはならない。それができなければ、罰金か他社の枠を買うかを強いられて高コスト体質になってしまう。

大容量バッテリーを搭載する車両後部への追突安全のために、テールゲートにはCFRPが採用された。バッテリーの破壊による発火などを防止するためだ。CFRPは新技術で低コスト化され、表面にプレスで模様がつけられるため、内張を省略することができる。もちろん軽量化に貢献している 大容量バッテリーを搭載する車両後部への追突安全のために、テールゲートにはCFRPが採用された。バッテリーの破壊による発火などを防止するためだ。CFRPは新技術で低コスト化され、表面にプレスで模様がつけられるため、内張を省略することができる。もちろん軽量化に貢献している

 では、プリウスPHVがどんどん売れればOKかと言えば、そういうわけにもいかない。準ZEV枠の上限値以上に売っても意味がないからだ。それ以上の部分はMIRAIで埋めたいのが本音だろう。しかし、それも前述の通りでなかなか計画と呼べるほどにはこなれていない。となれば、テスラ型の長距離型電気自動車を開発するしかない。

 トヨタは今回の北米のZEV規制を前に、プラグインハイブリッド、電気自動車、燃料電池車というZEVを巡る多正面作戦を展開しなくてはならないのだ。その3連戦の第一歩として、プリウスPHVは失敗が許されない。3連戦の中では、一番勝ちが見えている戦いなのだ。トヨタの北米戦略が後手に回らないためには、この勝負に何としても勝ちたい。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。

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