個人的には、横光利一の次の一文が刺さった。「実際、一つのセンテンスにうっかり二つの「て」切れが続いても、誰でも作家は後で皮を斬られたやうな痛さを感じるものである」(同書、P053)。だから横光利一は「私は小説を書くときは締め切り一週間前に出来上がってゐないと出す気がしない」(同書、P54)。そこまでこだわるべきなのだ。
へっぽこライターとしては、この言葉こそが、締め切りの究極の価値をあらわにしていると思った。すなわち、まず締め切りがないと、人は基本的に怠け者だから仕事などしない。だから、締め切りは絶対に必要なものなのだ。
では、締め切りと、どのように向き合うべきなのか。締め切りとは、ぎりぎりでもなんでも、とにかく間に合わせれば良いというものではない。締め切りは、自分で納得の行くものを仕上げるための伴侶みたいな存在である。こいつが尻をたたいてくれるからがんばれるのだ。何のためにがんばってゴールを目指すのかと言えば、自分の仕事を待ってくれている誰かのためではないか。そんな気付きを得た。
そして、この『〆切本』こそは、最高のペンシャープナーにもなると思った。毎朝、仕事をする前に、適当に本を開いて、誰かの苦し紛れの言い訳を読む。すると、こんな言い逃れをしないように、「さあ、書こう」という気分にさせてくれるではないか。おススメである。(竹林篤実)
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