電通とFacebookの不正業務から考える ネット広告の問題点とは?加谷珪一の“いま”が分かるビジネス塾(4/4 ページ)

» 2016年09月27日 06時00分 公開
[加谷珪一ITmedia]
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テレビの場合、不完全だがそれなりの防止策が施されている

 テレビの場合にも、以前、似たような不正が発覚したケースがあった。1990年代、一部の地方局において、実際にはCMを放送していないにもかかわらず、広告主からは広告料を徴収するという、いわゆる「間引き」が行われていた。

 これはメディア側の不正であり、放送局は虚偽の報告書を広告代理店に送っていたという。代理店側はこれを見抜けず、広告主から料金を請求していたのである。間引きの発覚後、関係者は懲戒処分となり、民放各社は、CMにコードを埋め込む方式を導入するなど防止策を強化した。

 テレビCMの場合、どの程度番組が見られているのかという視聴率の数字が極めて重要となるが、視聴率についても、不完全ながらも独立した別会社を通じて調査を実施する体制が出来上がっている。

 現在、視聴率の測定は、ビデオリサーチという専門会社が行っている。無作為に選ばれたモニター世帯に設置された機器が、どの時間帯にどの番組を見ているか自動的に集計する仕組みだ。同社の調査方法に対しては、600という少ないサンプル数で正しい評価ができるのかといった疑問の声も一部から出ているが、統計学的には十分な裏付けのあるサンプル数であり、相応の精度で調査が行われている。

 また、ビデオリサーチは電通が34.2%を出資しており、電通の関連会社になっている。また、録画の影響が考慮されないなどの問題も指摘されているが、独立した別会社で調査が行われている意味は大きい。全ての情報が代理店もしくはメディア側に集まってしまうネット広告に比べれば透明性は高いといって良いだろう。

 今回の一件は、トヨタという最大顧客の指摘があったので表面化した可能性が高く、同じような不正が慢性的に行われていた可能性は否定できない。電通では年内をメドに再発防止策をまとめるとしているが、業界全体としては、第三者にチェックさせるような仕組みの構築が必要となってくるだろう。

 もっとも、一連の不祥事はネット広告市場が拡大する過渡期の現象と捉えることもできる。2015年における日本の広告市場は約6兆円だったが、このうちネット広告は、急拡大しているとはいえ5600億円しかない(調査方法が異なる電通の調査では約9000億円)。

 今後、ネット広告が本当の意味で広告の中心になっていけば、広告主も費用対効果に対してもっとシビアになり、こうしたずさんな体制は許容しなくなるはずだ。

加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)

 仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。

 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。

 著書に「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。


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