話が通じない記者には「実力行使」にも出た。自民党会派の控室で、議員たちに報酬アップについてアンケートをしていた北日本新聞の記者に「何を聞いているんだ!」と怒鳴って、取材メモを取り上げ、勢いあまってケガをさせたことも、少し前には話題になった。つまり、中川さんは「月60万ぽっちの歳費じゃ議員の仕事はつとまらん、もっとくれ」というメッセージをメディアに訴えることに政治家生命をかけていた御仁なのだ。
ただ、なによりも中川さんがメディアに「老後の不安」を訴えたのは、富山市議会自民党会派の会長という要職におられた責任感だと思っている。
実は中川さんの不正が明るみに出る1カ月ほど前、全国都道府県議会議長会が、『地方議員のなり手が不足している』とし、地方議員も年金に加入できるよう法整備を求める決議をした。これを受けて、自民党内にも「地方議員年金検討プロジェクトチーム(PT)」が発足。地方議員の年金を復活させようじゃないのという議論が動き出していたのだ。
つまり、中川さんは政治生命をかけて取り組んでいた「地方議員の議員年金復活」が、ようやく実現に向けて動き始めた矢先、自分自身それをちゃぶ台返しするような不祥事を起こしてしまったのだ。会派を仕切るドンとしてはあるまじき失態だ。
こういう針のムシロにいる者が、犯行動機を素直にポロポロ語るだろうか。700万円着服という事実はもう変えられないが、せめても罪滅ぼしで、「議員年金復活」の希望がつなげるような方向へもっていく、というのは容易に想像できる。
身内である自民党のメンツを守るため、そして「地方議員」の特権保持のためにも、「酒好きで政活費を使い込んだ議員」ではなく、「老後の不安から政活費に手を出してしまった議員」というキャラになりきらなくてはいけなかったのである。
もっと言ってしまえば、そのような「貧困にあえぐ地方議員」をアピールすることで、「こういう不正が起きないように地方議員は年金をつけてあげよう」という論調になるのを期待していたのかもしれない。
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