高井: 旧施設には毎年のように投資をしていました。珍しい生物などを展示して、なんとか運営を続けてきましたが、何か物足りなさがあったのでしょう。お客さんがどんどん減っていく中で、私たちができることは何かを考えました。新しい水族館の大きさは、タテ200メートルほど、ヨコ40メートルほど。そのスペースの中で、工夫をする必要がありました。水族館で人気のある魚といえば、ジンベイザメやマンタなどを想像されるかもしれませんが、新施設ではそうした人気の魚で勝負しないことを決めました。
土肥: いまのえのすいは2004年にオープンしました。その翌年に、沖縄美ら海水族館がオープンしていますよね。あちらは規模も大きくて、ジンベイザメがマンタが泳いでいます。失礼な話ですが、えのすいの大水槽に比べて、沖縄美ら海水族館の大水槽はものすごく大きい。「沖縄にどでかい水族館ができるぞー」と言われていた中で、えのすいは何をウリにしたのでしょうか?
高井: 相模湾に生息する生物ですね。水族館の目の前にある相模湾は、イワシの漁場。大水槽の主役は「イワシの群れでいこう」と決めました。
土肥: 普段、家で食べる魚ですよね。それを主役に?
高井: 頭の中で考えると「地味じゃない?」と思われても仕方がないかもしれません。でも当時の水族館で、イワシを主役に抜てきしたところはなかったんですよね。不安もあったのですが、実際に見てもらったところ、お客さんからは「知っている食用魚なのに、見ているとおもしろい」「同じ動きをしないので、見ていて飽きない」といった声がありました。
土肥: ふむ、確かにイワシの大群が泳いでいる姿ってキレいですよね。キラキラしていて。ところで大水槽の中には、イワシが8000匹ほどいるんですよね。そんなにたくさんのイワシをどのようにして手に入れたのでしょうか?
高井: 最初のころはさまざまな漁師さんや業者の方にご協力いただきました。ただイワシに限らず、他の魚もそうなのですが、実は地元の漁師さんから手に入れるケースが多いんです。
土肥: なんと、なんと。
高井: 漁に出られて、珍しい生物が網に引っ掛かることがあるんですよね。そうしたときに、漁師さんに「えのすいが喜んでくれるから、採っておこうか」と思っていただかなければいけません。私たちが「○○という魚が欲しい」と思っても、手に入れることって難しいんですよね。その魚だけを釣ることは難しいですし、その魚だけを網ですくうのも難しい。あまり知られていないかもしれませんが、地元の漁師さんたちとの良好な関係がなければ、水族館って運営することが難しいんですよね。
いまは、生きたイワシを扱う業者がありますが、当時はなかったので、地元の漁師さんにお願いしていました。網の中で死なないように丁寧に採っていただいて、生きたまま水族館まで運んでもらいました。
土肥: イワシって何年くらい生きるのですか?
高井: 寿命は数年ですね。大水槽の中には8000匹ほどいるので、このボリュームを維持するために定期的に補充しています。初期のころは輸送状態によって、コンディションがよくないイワシもいました。いい状態を維持するのは難しいのですが、現在はかなり安定してきました。年に4〜5回補充しているので、お客さんが「あれ? イワシが少ないなあ」と感じることはないと思います。ちなみに、補充するのはゴールデンウイークや夏休みといった長期休暇の前が多いですね。
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