イチローも悲しむ若手右腕の事故死 「悲劇」で語った大物たちの言葉とは赤坂8丁目発 スポーツ246(3/3 ページ)

» 2016年09月28日 11時31分 公開
[臼北信行ITmedia]
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ハンターやAロッドの言葉

 もう二度と、こんな悲しいことは起こらないでほしい――。フェルナンデスの非業の死のニュースを聞いたとき、そう思わずにはいられなかった。だが、ふと思い起こすと数年前にも将来を嘱望されるメジャーリーガー投手の不慮の死があったことに気付かされる。

 アナハイム・エンゼルスのニック・エイデンハート投手(享年22)が2009年4月9日、アナハイム近郊で知人とともにクルマに乗っていたところ、赤信号を無視して突っ込んで来たミニバンに衝突され、帰らぬ人となってしまった。7年半ほど前の悲劇だ。逮捕された犯人は運転免許停止中であり、アルコールも法律で定められた基準値を超える血中濃度が検出されるなど非常に悪質な暴走運転を凶行させていた。

 エイデンハートは2004年にドラフトで指名されたエンゼルスと契約。入団直前に右肘を痛める憂き目にあいながらも、トミー・ジョン手術と地道なリハビリによって克服し、2008年に待望のメジャーデビューを果たした。将来を有望視される未来のエースとして2009年に開幕ローテ入りを果たし、彼には素晴らしい未来が待っているはずだった。

 しかも、この若手右腕は事故に遭う前日に先発マウンドに立っており、6回無失点の好投を見せていた。つまり、好投した試合直後に不幸にも悲劇に見舞われてしまったのである。ショックに打ちひしがれながらも当時エンゼルスの中心選手だったトリー・ハンター(現在は引退)がメディアに対し、次のようにコメントしたことは深い悲しみにくれる多くの地元ファンからも共感を呼んだ。

 「自分を含め今一緒にプレーしている多くの選手たちは肉親や知人を亡くした経験がほとんどない。こんな事故が起こったことは辛く残念だけど、これも人生の一部であり、これが現実であることを受け止めなければいけない。毎日朝起きたとき、そして仕事に行く前に、家族にキスをするのはこういう理由があるということを忘れてはいけない」

 この当時、たまたま筆者は渡米していてメジャーリーグを取材中だった。ニューヨーク・ヤンキースの主力であった「Aロッド」ことアレックス・ロドリゲス(今季で引退を表明)が、このエイデンハートの悲報を聞き、こう口にしたことを鮮明に覚えている。

 「自分を含めプロフェッショナル・スポーツの世界に生きる人間を多くのファンは常人離れした能力の持ち主として崇(あが)めてくれている。それはある部分で事実かもしれないが、ある部分では間違い。我々は野球の世界では『スーパーマン』であっても、ひとたびグラウンドから離れれば普通の生活をする人間。決して不死身なんかじゃない。だから、こういう余りにも辛く悲しいことに現実として直面してしまう可能性がある。これは誰にでも起こりうることなんだ」

 エイデンハートの悲劇から約7年半後、メジャーリーグはまたも若き希望の星を突然の事故によって失ってしまった。まだまだやり残したことがたくさんあったであろう彼らの無念を思うと本当に辛い……。とにかく辛過ぎる。ただ今はハンターやAロッドの言葉を深く噛み締めながら、天に召された故人たちのご冥福をお祈りするしかない。合掌――。

臼北信行(うすきた・のぶゆき)氏のプロフィール:

 国内プロ野球、メジャーリーグを中心に取材活動を続けているスポーツライター。セ・パ各12球団の主力選手や米国で活躍するメジャーリーガーにこれまで何度も「体当たり」でコメントを引き出し、独自ネタを収集することをモットーとしている。

 野球以外にもサッカーや格闘技、アマチュアスポーツを含めさまざまなジャンルのスポーツ取材歴があり、WBC(2006年第1回から2013年第3回まで全大会)やサッカーW杯(1998年・フランス、2002年・日韓共催、2006年・ドイツ)、五輪(2004年アテネ、2008年北京)など数々の国際大会の取材現場へも頻繁に足を運んでいる。


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